29-5
ミーティングが行われた。
「高総体が終わった」
北河監督が口を開く。
「結果はみんな知っての通りだ。塔南大付属高校に敗れた。各々、思うところはあるだろう。全員、サッカーノートも提出してもらったし。試合に出た者、出られなかった者、それぞれが感じたことを書いてもらい、我々、監督コーチ陣も全員のノートに目を通したところです」
今泉コーチがあとで全員ノート取り来て、と目配せをする。
「これから三年生は決断しなければならない。冬の選手権大会まで残るのか、それともここで引退するのか」
北河監督が三年生のいる方を見て微笑んだ。
「三年間、つらいこともあったと思います。辞めたいと思ったこともあったと思います。それでも、今まで続けてくれて、この紫夕館高校サッカー部を引っ張ってくれたことを僕は、皆さん全員に感謝しています」
ありがとう、と北河監督が言うと涙を流す三年生もいた。
「僕は教師の立場からも、大学進学や、就職をないがしろにしてでも部に残れとは言えません。それに、さっきも言ったとおり、皆さんにはもう充分チームに貢献してもらいましたから。ここから先の決断は、自分のためだけを考えて選んでほしい」
北河監督はそう言って、飛田っちに場所を代わった。
飛田っちが話し始める。
「キャプテンとして、最後の仕事をしようと思う」
え、飛田っち引退するの!?
俺の心の声が届いたかのように、飛田っちと目が合う。
そして、少し笑って言った。
「狗が心配そうに見てくるから先に言うけど、俺は辞めないよ。でも、キャプテンは引退する」
俺を含め、一、二年生からは驚きのような声が上がったが、三年生たちはすでに分かっているように黙って聞いていた。
「今まではキャプテンが残るのなら、そのまま引き続き三年がキャプテンをやっていた。でも、俺はもう二年がキャプテンでいいと思うんだ」
去年のキャプテンは冬まで残らなかった。
頭の良い人で、大学も難しい大学を受けるとのことだったから仕方ないことだと思う。
だから、飛田っちがキャプテンになったのは夏のこの時期だった。
他の三年からも、同学年からも当然という流れで飛田っちに決まった。
そして、コーイチさんを飛田っちが副キャプテンに任命(その後、コーイチさんが部を離れたため晃次さんが副キャプテンを引き継ぐことになる)した。
「元々、俺はキャプテンになる器じゃないんだよ」
肩をすくめながら、飛田っちが言う。
「このチームは大変だし、みんな言うことは聞かないし。これでようやく肩の荷が下りる」
でも、と少し小さな声で、でも俺たちをしっかりと見据えながら飛田っちが言った。
「俺はこのチームのキャプテンで良かったと思うよ」
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