28-7

「柿さん、ストーカーの素質ありますよ」

「やかましい」

 小林がニヤニヤ笑いを浮かべながら、諦めたかのように両手を挙げて走るのをやめた。

「もう無理、この人」

 俺のマークがよっぽど嫌なのか、顔を顰めて肩パンをしてくる。

「おい、ファウル」

「痛くないでしょ」

「まぁな」

 それよりも、とサイドを抉る3番を指さしながら小林が呟く。

「柿さん中に戻らなくていいの?」

「俺が中を埋めなくても、ディフェンスが対処するからな。その手には乗らんよ」

「残念。でも、もう一枚のボランチはどうします?」

 走り出して俺たちを追い越していった17番が確かにフリーだが、小林こいつをほっぽり出してまで俺がつく必要はない。

 それに、3番からのマイナスのボールはそんなに簡単に通るコースではない。

 中のフォワードに高いボールを上げられる方がよっぽど脅威だ。

「長坂、17番きてるぞ」

「オッケーっす」

 それでも一応、ディフェンスには伝える。

 これで17番にパスが通っても長坂がブロックに入るだろう。


 あとどのくらい時間が残っているんだろうか。

 とりあえず、あの18番にボールを持たせてたら危ない。

 こっちがボール保持できていれば問題ない。

 サイドから縦に仕掛けながら中の様子を見る。

 王様は無理だな。

 古橋さんも囲まれてるし。

 晃次さんは遠過ぎる。絶対通せない。

 コバは……あいつ、諦めてらぁ。完全に柿庭さんの徹底マークにうんざりしている。

 おや?

 瀬野、良いとこいるじゃん。

 入ってくるタイミングも悪くないよ。

「村山さん」

 そう思っていたらバッチリ目が合った。

 後半から出されて元気も有り余ってそうだしな。

 ただ、そこシュートコース無さそうだけど。そう思ったけど、なんとかしてくれそうという直感にしたがってマイナスのボールを出した。


 村山さんからのボールは、グラウンダーで俺の足元に流れてきた。

 俺が走ってきた速度に合わせて足元にくるパスは流石としか言えない。

 前を見た。

 パスを出せる程の距離は無く。

 シュートを打てる程のスペースも無い。

 それにすでにディフェンスが一枚プレスにきているのが見える。

 どうする、なんて考えている時間はない。

 ボールを左足で逆回転を掛けながら、足元に収め、左のアウトサイドで横にスライドする。

 そして、シュートモーションに入る。

「長坂、詰めろ」

 後ろから響いたその声と同時くらいに、距離を詰めてきたディフェンスがシュートブロックのために足を伸ばしてきた。

「王様」

 それを狙ってたんだ。

 そのディフェンスの股下を通すパスを王様目掛けて出す。

 パスというより、シュートのようなスピードのあるボールに王様は反応してくれるか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る