28-5

 ファーストタッチの直後を狙え。というのはボール奪取のセオリーの一つだ。

 その上であの13番はファーストタッチが浮く、というのは柿庭さん情報だった。

 だからセカンドボールを拾うのは相手に任せていい。俺はそのセカンドボールのこぼれを狙う。

 肩同士をぶつけて相手をボールから遠ざける。

 ほんの少しでいい。ぶつけた弾みを使って俺はボールの方へと移動する。相手は逆に離れる。そのほんの少しの差で局面は大きく変わる。

 それでもボールをキープし前を向くと、体勢を整えた13番が前に立ちはだかった。

 足先でボールをキープし、仕掛るタイミングを待つ。

 足を伸ばしてくるようなら、体重移動したタイミングで加速するが……その様子はない。

 どうやら俺の出方を見るようだ。

「瀬野、サンド!」

 相手キーパーの声で自分が挟まれそうなことが分かった。

 背後に視線をやる。

 チャンス。

 その瞬間、相手の動く気配があった。

 覚えていた相手の位置と予測できる動きに合わせてボールを蹴る。

 相手の股下を狙って出したボールは、その狙い通りにゲートを通過する。

 思ったよりも、後ろからきてるな。

 まぁ、もう関係ないけど。

 前を向き直り、13番と入れ替わるようにボールを拾いに行く。

 そのままドリブルを開始。

 前方にはディフェンス一枚とゴールキーパーのみ。

 このディフェンスは追いついてくるな。

 スピードで抜くにはゴールまでの距離がない。

 さっき振り返ったことで見えた状況的に、後ろにパスを出すことはできないだろうし。

 そもそも、出す選択肢も持ち合わせてないけど。

 シュートは? コースが無いのと、モーションに入る前に相手のブロックが間に合いそうだな。

 だとしたら、やっぱりぶち抜くしかないか。

「飛田!」

 相手キーパーの声より早く、キャプテンマークを巻いたディフェンスが俺に寄せてくる。

 中を切りながらのプレスには隙が無く、このままでは100パー取られる。

 勝負しようか。

 相手のプレスの速度に合わせてボールを引き寄せる。股関節周りと、膝を脱力させ、ボールが爪先に触れた瞬間に膝を伸ばし、爪先でボールを掬い上げ、相手の頭上を越すボールを上げる。

 それでもキーパーが出てくるには、躊躇うほどの飛距離で。

 シャペウ。

 ブラジル代表だったネイマールのプレーを見て身につけた技。

「新戸!」

 入れ替わるはずの体がガッシリとブロックされ、俺とボールの間にキャプテンマークをつけた背番号3が壁のように立ちはだかる。

「飛田ナイス」

 ボールは出てきたキーパーによってキャッチされてしまった。

「面白いが、それじゃ俺は抜けねぇよ」

 飛田と呼ばれたそのディフェンスが俺にそう言ってきた。

「舐めるなよ、一年」

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