28-4

「戸成、あの18番のプレーお前に似てない?」

「は? 俺の方が上手いし」

 すぐにそう返してきたけど、戸成は18番から視線を外さない。

「あのサイズでセンターフォワードは厳しいと思ったけど、あっという間に一点取ったしね」

 でも、うちのディフェンスラインがそう簡単に追加点を入れられるはずがない。

 瀬野も入ったし、ここからもう一点取って勝てる。

「望月……ヤバいかもしれない」

「なにが」

「あの18番。とんでもなく上手いわ」


 へー、その位置で要求すんのか。でも、そこは瀬野の守備範囲だろ。

 案の定、瀬野の伸ばした足に当たって18番には通らない。

「セカンドボール!」

 俺は後ろから声を出して、セカンドボールの回収を指示した。

 すぐに嶺井がボールを拾う。

「嶺井、プレスきてるよ」

 18番が嶺井にプレスを掛けようとしていたのを見て叫んだ。

 嶺井はその声に反応して、顔を上げる。

 ファーストタッチとほぼ同じタイミングだったと思う。

 嶺井の足がボールから離れた瞬間、嶺井は18番に肩をぶつけられる。

 危ない。

 そう感じるキーパーの本能を一体どれだけのフィールドプレーヤーが理解してくれるだろうか。

 嶺井のカバーに誰か出すか。でもそうすると中が手薄になりはしないか。

 どちらにせよ、指示を出すにはもう遅い。

 嶺井は転びこそしないまでも上体が崩れる。

 その隙を逃さない。

 18番は即座にボールを回収し、キープに入る。

 あの小さな体で嶺井からボールを奪いやがった。

 瀬野がカバーに入ろうとしているのが見えた。

 嶺井が体勢を立て直し、18番に対峙する。

 飛び込むと抜かれる。それは嶺井も理解しているだろう。

 奪いに動くにしても、瀬野のカバーが間に合うまで待つしかない。

「瀬野、サンド」

 俺の声に18番が後ろからくる瀬野に視線をやった。

「ダメだ!」

 そう思ったけど、声は間に合わなかった。

 嶺井が自分から視線が外れてボールを奪えると思ったのだろう。距離を縮めて足を伸ばした。

 18番はそれが分かっていたように、ノールックで右足のアウトで嶺井の股下を通した。

 そして、前方を向き直すと躊躇いなく加速する。

 ボールと入れ替わりになった嶺井を置き去りにして、18番はサイドから中に切り込んでくる。

「飛田!」

 出したくないけど、出すしかない。

 このままでは俺と一対一だ。

 飛田も分かっていたようで、俺が声を掛ける時には18番との距離をかなり詰めていた。

 とりあえず、これですぐにシュートはない。

「瀬野、飛田のカバーに。嶺井も中に戻れ」

 指示を出しながら、自分のポジションも確認しつつ、シュートと止める体勢に入る。

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