28-3

「狗宮」

「あの巨人……みたいなデカい奴、隙がねぇ。俺にはもう無理。前半飛ばし過ぎたし。飛鳥を頼む」

「おつかれ、とりあえずやってみる」

 珍しく弱音を吐く。普段より疲れ気味に見える狗宮に背中を押され、ピッチに入っていく。

 勝つためには、もう一点取りにいかないといけない。そのためには、多少のリスクを冒してでも前に出る必要がある。

「なんだ、お前かよ。いーちゃん、交代カードを切るセンスねぇな」

 小林さんから容赦ない言葉を浴びせられる。

「その割に、ニヤついてんじゃん」

 気持ち悪っ、と村山さんが大袈裟に顔を顰めた。

 はぁ? と怪訝そうに

「あのフォワードにパスを入れられるわけにいかない。お前はそれを死守しろ。最悪、ファールで止めても構わん」

「分かってます」

 あの18番のテクニックはおそらく戸成以上。あんなのチートに近い。

「また小さい奴出てきたな。こいつも一年だろ」

「柿さんがデカいからって出てきた奴全員、一年にすんのやめません? ……まぁ、こいつは一年ですけど」

 いやいや、おたくの18番だって相当小さいですよ。とは流石に思っても言えない。

「瀬野、ボンヤリするなよ」

「香野」

 香野が俺にパスを出しながら、横を上がっていく。

 こいつもよく体力持つな。多分、ここ一、二ヶ月で運動量上がっただろ。そんなことを思いながら、顔を上げると、覆い被さるように、狗宮の言葉を借りるなら巨人が前からプレスを掛けてきていた。


 はぁ? どうやって通した?

 柿庭さんのプレスで嵌ったと思っていたのに。

 入ってきたばかりの相手の17番。完全に嵌ったと思ったところから前線に良いパスを通しやがった。

「皆上、最低限のディフェンスはやれよ」

「うっす」

 おかげで俺が自陣に戻るはめになった。


 瀬野のプレス回避は流石だった。

 柿庭大地からのプレスを引きつけられるギリギリまで引きつける。爪先でコントロールし、わざと足を出させると、その開いた股下を間髪入れずにグラウンダーのパスを通す。

 まるで気づいてないかのようで、間合いとタイミングはしっかりと測っていたことが分かる。

「コバの一年の時よりレベル高くね」

 そんなこと言ったら期限悪くなるか。

「ヤス、サポートサボんなよ」

 おっと。

 こっちの思考が読めているのか、コバがこちらを見て走れとアイコンタクト。

 はいはい。

 やりますよ。負けたくないしね。

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