28-2

 あのプレースタイルは知ってる。

 皆上。

「久遠寺君。兄が残念がってましたよ。俺以上の逸材なのに、同じステージまで来ないって」

「お前、皆上の弟なのか」

「皆上和豊です。俺は兄を越えます。勿論、あなたも」

 身長は20センチは違うだろう。

 それでも、足のパーツはヒラメ筋からハムストリングにかけて入っている筋と全体の太さから、普段から相当追い込んでいることが分かる。

「お前、一年だろう」

「はい。アンダー(アンダーカテゴリー別の代表)ではまだ呼ばれてないですが、いずれ入ります」

 この試合はそのための踏み台として、勝たせてもらいますよ。

「一年にしては礼儀がなってないな」

 小林が話に入ってくる。

「簡単にひっくり返せると思うなよ」

 そう言った小林を皆上は睨んだ。


「登録してたからどこかで出すとは思ったけど、皆上はなぜ今なんだ」

「成長痛とかですか」

「まぁ、あの身長であれだけ下半身太いからな、無理もないかもしれない」

 北河監督、今泉コーチ、松山コーチが話しながら、戦術ボードをイジる。

「瀬野、準備しろ」

 今泉コーチと目が合った。

 少し焦りのあるような表情。

 他の二人を見てもどこか焦燥感にかられているように戦術ボードの磁石を動かしている。

「瀬野出るのか?」

「多分、狗宮と交代だ」

「だろうな」

 アップに付き合うと、望月と戸成がボールを持って投げてくれる。

「なぜ狗宮?」

 望月が俺の足元にボールを投げながら聞いてきた。

「柿庭大地からボールを奪えなくなってきているからだろ」

 戸成が答える。

 そのとおり。狗宮に慣れたのか分からないけど、中盤で狗宮がボールを奪うプレーが少なくなってきているのは確かだ。

「香野と小林さんで抑えてはいるけど、狗宮を使う限り、あのチビにボールを入れられ続けることは避けられなさそうだ」

 狗宮にあの小さい奴をマークさせると、中盤のラインが極端に下がる。

 相手に押し込まれた状態でのプレーが続くことになるからやりたくない。

 嶺井さんか飛田さんのどちらかがマンマークするのが一番良いかもしれないけど、中盤が突破された時のカバーもしないといけないだろうから、マンマークは難しいんだろう。

「瀬野、すぐ行くぞ」

「はい」

 そう言われて、監督たちの方に向かった。

「狗宮と交代。瀬野の役割は、あのフォワードのパスコースを消しながら、柿庭の中央突破を止めること」

 それと、と北河監督が今泉コーチの説明の後に付け加える。

「小林のプレーは見ていたね。攻撃におけるオフザボールの動き、ビルドアップの際には前に出ていくのも君の役割だ」

「はい」

「それじゃ、行ってこい」

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