27-9

「絶対に決めてやろう、って思いましたよ」

 通りすがりに柿さんにそう言うと、想像通りの苦い表情で唸った。

「コバ、ナイス。練習の成果が出たな」

 ヤスはそう言うけど、無回転は好きで蹴っているだけだ。

 練習しているというよりは、どうせ蹴るなら無回転を蹴りたいと思ってるぐらいには、無回転は蹴っていて楽しいから。

 たまにパスまでも無回転になって怒られることもあるけど。

「よし、ここから集中。リードしたからな、少なくともこのリードは守っていかないと」

 飛田さんが手を叩いて鼓舞する。

 確かに、このリードを追いつかれたら次の一点はかなり厳しい気がする。

 時間的にも流れ的にも。

 それに間違いなく、柿さんの攻撃参加が増えるはずだ。それを凌ぐにはどうすればいいか。

 点を取っても楽観することはできない。

 一点差なんて、あってないようなものだと考えないと、すぐにひっくり返される。

「狗宮、香野、気を抜くなよ。くるぞ」

 狗宮は忠実に頷くが、香野がうんざりした表情を浮かべた。

「僕もう体ボロボロなんですけど。あの人当たり強過ぎ」

「なら瀬野と代わるか」

「……やりますけど」


「塔南大付属、9番アウト、18番イン」

 18番、皆上和豊。一年、ポジション、フォワード。

 こいつをここまで温存していたことには、理由がある。

 小林、驚け。

 こいつがこの試合をひっくり返す。

「18番なんかちっこいな。一年か」

 相手のディフェンスが言うように、確かに皆上は、165も無いし、フォワードにはしては体格に恵まれてない部類かもしれない。

 それでもこいつは一年生離れした化け物だ。

「柿庭さん、俺の好きに動いていいんすよね」

「あぁ、お前にボールを集める。好きにしろ、その代わり……」

「分かってます。点は取るんでボール下さい」

 ファーストタッチですぐに、こいつの恐ろしさに気づくことになる。

「は?」

 マッチアップしていた6番が信じらないといった表情で声を上げる。

 俺から受けた浮き球のパスを左足のヒール触ると、そのボールが落ちる前に体を反転させ、左足の今度はインステップでボールを触る。

 この反転の際に、6番と位置の入れ替わりに成功している。

 前を向いてボールを触っている現段階だと、完全に体の前でボールを守れる位置にキープできている。

 そのまま、ボールを前に運び、相手のカバーがくる前に左足のサイドでシュートを打った。

 そして、皆上は当たり前のことのように、ボールを回収し、センターサークルまで持って行く。

 2-2。

「次、早くやりましょう」

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