27-8

「なぁ、お前はどこに穴があるんだ?」

「柿さん、俺に穴なんてものは無いんすよ」

 確実にボールを奪いにくるな、というタイミングで左足でキープしていたボールを右足に持ち直す。

 そのほんのコンマ数秒後に、柿さんの足が俺の左足へと伸びていた。

 ボールを奪いにきたその足に、俺がタイミング良く残した左足が掛かる。

 そのまま、左足を残した状態で地面に転がった。

 すかさず審判が笛を吹く。

「大袈裟に転がりやがって、掛かってないだろうが」

「ちゃんと掛かってましたって」

 勿論、転がる程には掛かって無い。

 それでもこれも一つの技術と言ってもらいたい。

「ホント食えない奴だ」

 そう言いながらも、地面に倒れた俺に手を伸ばす。

 その手を取り、体を起こしながらも俺はすでにゴールのことを考えていた。

「こっからだったら打てますね」

 ペナルティエリアから、4、5メートル離れたところ。

 相手のゴールキーパーはすでに壁を形成しようとしていた。

「これで入ったら柿さんのせいですよね」

「……」

 返事は無い。

「コバ、大丈夫か」

 ヤスがボールを持って俺に駆け寄ってきた。

「大丈夫」

「お前、蹴るだろ」

「あぁ」

 ヤスは俺の顔を見て、大丈夫そうだと分かったのかボールを置くと、すぐに離れた。

「コバ、蹴れるか?」

 古橋さんが聞いてくるのに、片手を上げて反応する。

「狙えるぞ」

 セットプレーに備えて、飛田さんが前に上がりながら、横を通る時に耳元で囁く。

 その声に頷きながら、審判の指定した場所にボールを置いた。

 カーブ、ジャイロ、さっきの古橋さんのシュート見てたらドライブもあり。

 でも、ドライブをセットした状態で蹴ると、足首痛いんだよな。なんて、考えながらも助走を取る。

 ホイッスルが鳴る。

 走り出すともうあれしかないな、と勝手に足がボールを叩いた。

 インサイド寄りのインフロントで固定した足首はそのまま前に押し出す感じ。

 軸足は前に押し出した蹴った方の足と同様に、一瞬、両足とも地面から離れる。

「ブレろ」

 壁の無いキーパーが立っているコースに弾道の高いボールを蹴り込む。

 嫌だろうな、俺だってキーパーやってたら嫌だ。

 自分に向かってくる無回転なんて。

 だからその嫌なことを逆手に取る。

 誰かさんみたいだ。相手の弱点に漬け込むやり方。

 着地しながら、その誰かさんを見やった。

 柿さんはキーパー! と叫びながらもゴールに向かって走っている。

 迎える結末は何となく予期できているだろうに、その足を止めることはない。

 ボールは空気抵抗により落ちつつ、それでも速度を落とさずにゴールへと向かう。

「分かってても止められないシュートはあるんだよ」

 キーパーはパンチングで弾き出そうと手を出すものの、その手をボールが弾き、そのままゴールへと入っていった。

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