27-7

「どうして香野をディフェンスラインに下げて中盤を投入しないんだ?」

 隣にいる緑川が不思議そうに呟く。

 やはりか。

 誰もがそう思うはずだ。

 本来、中盤ではない香野を最終ラインに加える方がスリーバックは安定する。

 確かにそうだ。

 だが、そしたら誰が柿庭のフィルターとなる。

「晃一さん。晃一さんはミーティングに参加してましたよね。これは最初からこの作戦だったんですか?」

 仙道が真剣な表情で聞いてくる。

「勿論、ディフェンスラインの誰かが欠けることは計算外だ。フルで松島は起用するつもりでいた。でも、同じように中盤も香野と狗宮の二人で柿庭大地、あのデカい奴を止めるという作戦がある。だからこそ、香野を中盤から動かせないし、瀬野もスタメン起用じゃない」

「どうして一年二人で向こうの柿……柿庭さん? を止めるんですか。経験ある二、三年の方が良くないですか?」

「柿庭大地の一番怖いところは分析にある」

 そう。柿庭大地の最も優れているところは、生まれ持ったフィジカルではない。

 相手選手を分析する能力。これが一番優れている。

「俺も過去に一度対戦したことがある。奴は相手の不得意なこと。例えば、俊敏性だとか逆足が蹴れないとか、フィジカルが弱いとか。そう言った相手の弱点を一試合通して見つけ出し、そこを突く攻撃を仕掛けられる」

 当時の俺も、高さという弱みから、コーナーの時になるとわざと俺とマッチアップしては、上からヘディングで決められた苦い思い出がある。

 最初は、フィジカルに物をいわせてやってるのかと思ったけど、晃次には逆足の不器用さに漬け込んだボールの刈り方をしていたのを見て確信した。

 こいつは、対戦相手が不得意なことを突くプレーを即興でできる。

 身体能力が高いゆえにできる芸当だ。

「一年の二人、香野も狗宮もまだデータとして無いだろう。だからこそ、柿庭はやりにくいはずだ」

「瀬野ではダメなんですか?」

「柿庭はプレーが正確であればある程、対応するのが早くなる。瀬野のプレーは常人ならギリギリで躱していくプレーだ」

「それが柿庭さんだと届いてしまうということですか?」

 応援そっちのけで聞いてくる仙道に頷いてみせる。

「そうだ。あいつのパスは柿庭にとっては守備範囲内だ」

 全部を引っ掛けるとは言わない。

 だが、普段の瀬野のプレーでは柿庭を躱せない。

「小林さんは?」

「あぁ、あいつはまた別。柿庭のそれを分かった上で躱すプレーができるから」

 だから瀬野に試合が始まる前に言った。

 小林のプレーを良く見ておくように、と。

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