27-6

 痛っ……。

 どこでやったか。

 前半を終え、ベンチに戻りながら左足首の調子がおかしいことに気づく。

 地面に左足をしっかりとつくと痛みが走る。

 知らない間に捻挫でもしたのか?

「松島、前半良かったぞ。あのスローインからの一失点以外、裏を取られてないし。相手のフォワードにほとんど仕事させてないよ。後半もこの調子でいこうぜ」

 飛田さんが横に並んで歩きながらそう言ってきた。

「ん、どうした?」

 左足になるべく体重が乗らないように歩いていたことにすぐに気づき、肩を回してくれる。

「左足どうかしたのか?」

「分かりません。試合中にどこかでやったかもしれない」

「マジか。とにかくベンチに戻って、岡本にアイシングしてもらおう」

「はい」

 ベンチに戻ると、飛田さんはすぐに説明した。

 今泉コーチはすぐに渡辺にアップするように伝える。

「松島君、ソックス脱いでみて」

 岡本から言われ、左足のソックスを脱ぐ。

「これは厳しいかもしれませんね」

 北河監督が慎重に俺の左足に触れ、眉をひそめた。

 左足はやはり腫れていた。

「試合中には気にならなかったんですけど」

 アドレナリンが出ていたからなのだろうか。試合に集中していたからだろうか。どっちにしてもこの状態で試合に出続けることはできないことは自分でも分かった。

「メンバーを変える。松島の位置に渡辺」

「はい」

「飛田、渡辺の試合の入りをサポートしろ」

「分かりました」

「松島君、水分摂った?」

 岡本がスポドリの入ったボトルを渡してくれる。

「試合、これからってところだったのにね」

「あぁ、ようやくスリーバックに適応でき始めてきたところだったのに」

「松島大丈夫か」

「渡辺さん」

 アップをして、少し息のあがった渡辺さんが俺の左足を見てから肩を叩いてくれる。

「すいません、いきなりで」

「ホントだよ、勘弁しろよ」

 でも、としゃがんで俺と同じ目線まで腰を落とす。

「ここで終わらせないから大丈夫だ」

「頑張って下さい」

「任せろ」

 そして、渡辺さんは走っていってしまった。


「どうした。お前らのベンチえらくバタバタしてたけど。ディフェンスも一枚変わってるみたいだし」

 柿さんがすぐに俺たちの変化を指摘した。

「そうですか? 気のせいですよ」

「あのディフェンス。センバじゃないだろ」

「だったらなんすか」

「いや、中に絞るのが少し遅いなと。あと、横作る(パスコースを作るために横へ降りる動き)のも遅いし。少なくともスリーバックのセンバには慣れてないよな」

 まだ始まって5分も経ってないだろ。何で分かんだよ。

「あのデカイのも本職ボランチじゃないのも分かってました?」

 香野を指さして言う。

「あの14番? そうなの? いや違和感無いわ」

「あいつ本職センバですよ」

「マジか。だとしたらセンスあるわ」

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