27-4

 コバからのボールは、もうダイレクトでシュートを打てという半強制的なニュアンスのパスだった。

 顔を上げてシュートコースを探すものの、ほとんどそんなもん無い。

 相手が守りに入り、カオスと化したゴール前は、王様への徹底したマークと中に絞られたサイドバックによってゴール上の方にしかシュートコースらしいシュートコースは無かった。

「ったく」

 この状況で打てというんだから、コバは酷だよな。

 まぁ、実際には言われてはないんだけど。

 でも、このパスはそういうことだろ?

 今日の俺は一応、フォワードとして出てるし、フォワードならこのシチュエーション、シュート一択だよな。

 外しても文句は言うなよ。

 コバからのボールは、ヤスからきたパスとも呼べるか分からないキラーボールをいなしてコースを変えただけもの。

 ただ、それを落とした位置だけはバツグンに良い。

 ボールがワンバウンドした。

 このボールは、まだ勢いは全然死んでない。

 次のバウンドの前に打つ。

 前方からは俺に気づいたディフェンスが一枚、寄せてきているのが見えた。

 バウンドしたボールが上に跳ね上がり、再び落下してくるのを見ながら、その落下地点へと走る。

 脳と足をフル回転させ、足にボールが触れるギリギリまで、どんなシュートを打つかを考える。

 あれでいくか。

 ボールに対して真っ直ぐの助走から、落下してくるボールを真っ直ぐ伸ばした右足のインステップで捉える。

 下から擦り上げるように回転を掛けつつ、上に飛び過ぎないように、足首の角度と股関節周りでインパクトを調整。

 そのまま足を振り抜く。

 少し高いか……。

 狙ったのは、キーパーの立っていない左隅の上。

 俗に言う神様コース。

 球種はドライブシュート。

 高いところから急激に落ちるボールは、俺の得意とするシュートだ。

 それでも、俺が思っていたよりもボールは浮いてしまった気がする。

 キーパーはボールに反応できていない。勿論、ディフェンスも。

 誰もがボールウォッチャーとなり、俺のシュートの行方を追っていた。

 掛かった回転によって落下してきたボールが、カツンと音を立ててクロスバーを叩いた。

 そのまま落ちてくることなく、ラインを割る。

「クソッ」

 枠に入っていれば入ってた。

 キーパーは触れもできなかったはずだ。

「わりい、コバ」

「ドンマイ、切り替えましょ」

 その言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、審判がホイッスルを吹いた。

 1-1の同点で試合を折り返す。

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