27-2
1-1。
ゲームを振り出しに戻した。
俺の放った低弾道ボレーは、少しアウト気味に曲がりながら王様の避けたコースから相手ゴールを射抜いた。
我ながらナイシューだったが、問題は、1-1のまま前半を折り返すのか、それとも多少リスクを冒してでも勝ち越しを狙うのか。
残り時間10分は切っているはず。このまま引き分けでもいい。
「小林」
「なんすか」
柿さんが近づいてきて、小声で言う。
「これで勝ったとは思うなよ。すぐにもう一回勝ち越してやるから」
あぁ、この人はだからこそU18日本代表候補なのだろう。
追いつかれたことへのメンタルのダメージが皆無だ。
俺のように前半は守りに入ろうなんて微塵も思ってない。
「……マジっすか。お手柔らかに」
そう言って、帰陣すると狗宮が何か言いたげな表情でこっちを見ていた。
「狗宮、お前成長したな」
俺がそう言うと、狗宮はシッポを振りながら掛けてくる犬のように笑顔でこちらに近寄ってくる。
「コーイチさんに言われたんすよ」
「あぁ、そういや、ポジトラ云々言ってたな」
「どうでした?」
「まぁ、良かったよ」
こいつは褒めちぎったら調子に乗るからな。これぐらいにしとかないと。
でも、正直驚いた。
瀬野が出ていたら、確実に瀬野が横のパスコースを作ってそこに出していたはずだ。
「僕には出すな、と言ったんですよ」
香野がボソッと言ってくる。
「こいつがカウンターを阻止したとして。そこで僕にボールを渡してどうするんですか。僕も前に渡すしかない。僕だってそんなにパスつけるの得意じゃないですし、密集地帯をドリブルで運ぶのもシュートで撃ち抜くのも無謀でしょ」
だから試合の始まる前に、ビルドアップ以外では貰わないからと、釘を刺していたらしい。
パスを出すなら俺か、前線にでも蹴っておけ、と。
いや、まさか。
晃一さんはこうなることを見越して瀬野を外させたのか?
瀬野が狗宮の衛星(ぐるぐるとパスを受けるために対象の周りを動く役割)をやっている限り、狗宮自身のパスのクリエイティビティは伸びない。
そのことを考えての起用か?
分からないが香野と狗宮は良い化学反応をみせた。
「狗宮、シンプルでいい。そのプレーを継続しろ」
「うっす」
「小林さん、僕あの人キツイんですけど」
香野が柿さんを指さして言う。
「そこがお前が使われている理由だ。我慢しろ」
「僕はフィジカル要員じゃないんだけどな」
ブツブツ言ってるが、お前がフィジカル要員じゃなかったら誰がフィジカル要員なんだよ。
「おら、お前ら逆転すんぞ」
ブツクサ言いながらも、香野の目は柿さんを捉えている。
お前はそれでいい。
お前と狗宮で柿さんを封じといてくれ。
そしたら、俺が自由に仕事ができる。
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