塔南大学付属高校戦2

27-1

 小林の攻撃時におけるオフザボール(ボールを保持していない時)をよく見ておくように。

 晃一さんから、今日のスタメン発表の後にそう言われた。

 俺にしても狗宮にしても攻撃への意識が低いということだ。

 スタメンを外れた理由は、無理をさせないためだと、今泉コーチから説明があったけど、多分攻撃の物足りなさがあったからだと思う。

「瀬野、スタメンじゃないからって落ち込むなよ」

「……別に落ち込んでない」

 望月にそう言われて、実は少し落ち込んでいることに我ながら嫌気がさす。

「望月」

「何?」

「攻撃の時、何を考えてる? 守備から攻撃に移る時の自分のポジショニングとか、オフザボールとかさ」

「ポジトラってこと? カウンターとかの」

「まぁ、そう」

 うーん、と少し考えてから望月が言う。

「ボールを保持している味方が顔を上げてオレを見た時に躊躇なくパスを出せるように動いているかな」

 確かに、中学時代も何度も望月にパスを預けた。

 あの時、望月に出してもボールを奪われないだろうという謎の安心感はあった。

「でも、瀬野には難しいかもな。オレがやってるのは、次にどう攻撃に移るか。瀬野はどっちかと言うと相手からどうやって逃げるか、だもんな」

 これはポジションが違うから役割も違うだろうし、と望月が笑う。

「でも、瀬野も明確にこっちの攻撃の時には、サイドの裏に抜けたりとか攻撃的なポジション取ってるじゃん」

「それはビルドアップ時だからな」

 多分、求められているのはボールを奪った時に、どれだけ早く次の攻撃に備えてのポジションを取れるかだ。

 今の小林さんのゴールなんか、俺だったら最後のボールに絡める気がしない。

 攻撃における二手先、三手先を俺は読もうともしてなかった。

 相手のカウンターを狗宮が止め、前線にボールが入るのを見届けたら、多分俺なら下がりながら自分の定位置に戻る準備をしていただろう。

 これが俺と小林さんの差。

「陰キャはプレーが陰キャだもんな」

「黙れ」

 戸成が会話に入ってくる。

「狗宮が奪えるだから、どうしてお前は高い位置で貰わない? って俺は理解できねぇよ」

 戸成に言われて気づいた。

 狗宮が奪ってそのボールを受ける時に、俺は自然とパス以外の選択肢を消していたこと。

 その後に自分がそのボールに絡みに行こうとか、ゴールを狙いに行くことはせず、安全なところにパスを送ると自分の定位置に戻ることを第一に考えていたこと。

 なんとなく、分かった気がする。

 次に試合に出た時に、俺がやるべきこと。

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