1-5

「瀬野のやつ、飛ばしてるな」

 あれは先輩にもコーチにも良いアピールになっただろう。

 それじゃ、こっちも頑張んないと。

 目の前のディフェンスは、何年生かは分からないけど、こちらより身長は高い。ガタイもいいし、高校生の中でも体の大きな方だろう。

 後ろからくるパスを背負って、味方が上がってくる間を作る、ポストプレーの役割が得意な自分からしたら、正直やりにくそうな相手にみえる。

 自分だって踏ん張りの利くフィジカルの強さがウリだ。どこまで通用するかやってみようじゃないか。

 それに、今までだって自分より体の大きな相手とも対峙してきた。サッカーは何もフィジカルだけがものを言う世界じゃない。

「ヘイ!」

 手を上げてアピールし、ボールを受ける。

 ただ、ゴールに背を向けてのタッチになってしまった。すぐ後ろに、ディフェンスが寄ってきているのを感じる。これでは前を向けない。

 一度、後ろにパスを戻し、背後のディフェンスに右に体を捻ったフェインかトを一度入れ、左に抜ける。

 ――遅い。思っていたタイミングでパスがこなかった。

 ダイレクトでもう一度受けれるかと思ったけど、ツータッチだと間に合わない。

 こちらの走り出しに、ディフェンスが間に合ってきている。

 かわすには距離が短過ぎる。サイドに走っている味方に出すにはコースが無い。

 シュートは? 距離が微妙。キーパーの位置も嫌なとこだ。

 大柄なディフェンスは中のコースを絞りながら、こちらに詰めてくる。

 今は左の方に逃げるようにボールを運んでいるけど、スピードはあちらの方が速い。すぐに追いつかれるだろう。仕方ない。

 仕掛けるか。

 さらに左側へと、ドリブルで突っ込む。敵の右サイドバックはこちらのチームの左サイドアタッカーを気にしつつも、こちらに体を向ける。

 味方の左サイドアタッカーに出したいけど、オフサイドだ。

 オレは二人を無視して、さらに外を回る選択肢を取る。

 左の人、内に走ってくれ、と願いながらもそうはならず、味方の左サイドアタッカーは歩き出してしまった。

 敵の右サイドバックは完全にオレに標準を合わせ、詰め寄ってくる。

 体のデカイセンターバックは完全に中に戻り、外に追いやるように右サイドバックが寄ってくる。

 一応、味方の左サイドアタッカーがパスを受けてくれる動作を見せるがそこに出してもなぁ。

 強引に、左サイドを駆け上がり、左足で中にクロスを上げる。

 ――合わない。クソッ!

 一気に出てきた額の汗を手の甲で乱暴に拭い、ディフェンスに戻る。

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