1-3

「オーケー、オーケーそれでラストにしていい。ぼちぼち時間だ」

 コーチの前で二人、十本ずつぐらいメニューを消化しただろうか。

 肉体的にはそんなに疲れてはいない。だが、一本ずつ集中してやったからか精神的に少し消耗した。

 やはり見られていると意識すると、変に力が入ってしまう。それを抑えるようにプレーすると普段より疲れる気がする。でも、失敗はしたくないし。

 まぁ、プレー自体は悪くなかったと思う。

 コーチからドリンクを渡され、ありがたく望月と二人で飲む。

「二人、ポジションは? 希望のポジションでもいいし、やってたとこでもいい。今日のゲームは……そうだな、20分好きなとこでやってもらおうか」

「フォワードです」

「中盤ならどこでも」

「望月はフォワード、瀬野は中盤か……よし、分かった」

 少し考えて、松山コーチが顔を上げる。

「二人は別チームでやってもらう。嶺井、チーム分けはできた?」

「大体できました」

「それじゃ、望月は小林のチーム。あ、ちょっと待って」

 と再び、考えるコーチ。

「小林、お前今日どっちだ?」

 どういう意味だろうか?

「今日はボランチやります」

「おーし、オーケー。望月は小林のチーム、瀬野は嶺井のチームに入って」

「うっす」

「分かりました」

 とりあえず、あいつと同じチームにならなくて良かった。

「よろしくお願いします」

「一年?」

「一年です」

「よろしく、名前は?」

「瀬野です」

「瀬野ね。このビブス着て」

 蛍光緑の6番のビブスを渡される。

「4-4-2の真ん中、俺とダブルボランチな。バランスはどうする?」

 同じボランチで組んだ牧田という先輩はよく話しかけてくれた。

「下がり目でやります。パス出していくので」

「よっし、守備は二人とも戻るからそのつもりでな。後ろから嶺井さんが声掛けてくれるだろうから、それ優先して」

 センターバックに嶺井という先輩が入っていた。牧田先輩が敬語で話しているところをみると三年生だろうか。チームの司令塔の役割を果たしているようだ。

「分かりました」

 他は好きにやってくれ、と笑顔を見せてくれた。

 頭をゲームに向けて切り替える。

 とりあえず、一本、キーパスを送ろう。それがアシストならなおよし、チャンスがあるなら積極的にゴールを狙う。

 そして、望月のキックオフでゲームは始まった。

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