第3話 《後半・神月の儀》
正月になれば、総本山のここに集まるのは必然的な事。かく言う俺も何度か来ている。
婿として親父は母さんとくっついたので、毎年来る事が義務られていないらしい。
お柴様。
その名を知らぬ者は、まず河上の者には居ないだろう。現在当主、河上家の頂点。
彼女…いや、彼もまた性転換者だ。
奇しくも、先代の名を受けてしまった方だと聞いている。
河上 沙和。
お柴様のお世話をする親族で、役職名は『
そんな二人が現在、目の前にいる。
圧
…これまでのどの出来事よりも緊張する。
なぜなら。
お柴様も沙和さんも普通に過ごしていれば、見ることすら叶わないのだから。
「お柴様、そろそろ…」
「…そうじゃな。どれ、名を名乗らんか」
「えっ!?」
急に、話を振られてびっくりしてしまった。待っていたというのに、逆に待たせていたのか。
「えと、河上 透です…」
名乗ったのだが、直ぐに返されない。
しかも、2人で見合ってる。
……いや。
睨み合ってないか?
「ごほん。それでは、これから『
「沙和…なにゆえ貴女が取り仕切っているの……?」
「次期当主として学ばねばと…思ったまでですよ、お柴様。」
「そう…理にかなってるわね。じゃあ…お願いしようじゃないの…」
待ってましたよ、と言わんばかりにドヤ顔をして パチン、と沙和さんが指を鳴らした。
すると、奥から黒子がこちらに、墨と筆、半紙を持ってくる。
突然の黒子に同様もせず受け取った後、順当な位置にそれらを構え、考え出す。
10分位して、筆を取った。その間、俺はと言えばずっと正座である。
スラスラスラ…
「…できましたわ。どうでしょうか、お柴様!」
「ふむ…良い名ですね。それでは……これより!発表を致す! 前名『河上 透』、返事をせよ!」
「えと…はい?」
「前名を撤回す。以後は、後名『河上
「「「「ほぇー)))」」」
「うわっ!」
いつの間にか、中庭のようなこの和室の全方位を人が囲っていた。それも男性のみ。
その目にあるのは…興奮のみ。
「やめなさい。それは、我らが当主に対する冒涜ですか?即刻、持ち場に戻りなさい。」
沙和さんが拳を強く握り、その場の畳を叩いた。
…怒った。
どうやら、これも想定の内らしい。
いつの間にか習字道具の一色がなくなっている。
そして、叩くと同時、突如として和室の壁(障子)が立ち上がり、周りを閉ざす。
「これ以上する者は彼…いえ、彼女の人権侵害とみなし、その場で首を跳ねます。」
「「ヒィー……」」
あ、まだ何人かは居たんだ。
閉まる直前にだいぶ人が散ってたように見えたけど。
「困ったものだろう?あんなでもうちには必要な男手なのさ。」
「お柴様、男手ならいるじゃないですか。」
「あの子…ね。本当、どうしたものかしら。」
何のことだろうか。
俺には到底分からない。
「陽秦さん。」
しーん…
「陽秦!呼ばれたら返事、でしょ!?」
「…はいっ!!!」
最初の優しい感じはお柴様で、2回目のは沙和さんだ。
いや、さっき一回言われただけの名前に呼ばれて、反応なんてできないだろ。
「それでね、陽秦さん。あなたは少しの間ここで過ごしてもらうことになります。その間、あなたの御家族は共に居られません。」
「…えっ」
「ごめんなさい、これもしきたりなの。期間は、神月が3回すぎるまで。神月は今だと満月のことね。その期間中、この大きな屋敷は性転換者だけにしなくてはいけない。」
神月の儀。
性転換の者が現れた年、この地にて当主と会合し新たな名を授かった日から数え、
神月を3回過ぎるまでの期間、奥の祠へ礼拝を、女としての生活を教え込む。
儀としているが、それは本の一握りしか捉えていない。
再度、ごめんなさいと言い、部屋を出ていってしまった。
それと同じくして、周りの和室の壁(障子)が下がっていく。
って、これ…下げないと出られないだけだ。
「陽秦。ちなみに…あなたの教育係って、私だから。」
「…へ?」
えーと、この人は、特殊な役職なんじゃなかったっけ?
「なんだー?その態度はぁー?…ああ、役職で教育係がいると思ったのか。まぁそう思うよな、でもいないんだよな。その年で違う人が選ばれる、って感じなんだよ。」
あれ、この人…さっきと話し方が違くないか。
つか、距離感が近い…近い。腕を肩に絡ませないで。
胸当たってるから……俺にも今あるわ。
「じゃ、そういうことだから。約3か月間よろしく!」
ああ、この人も性転換者だな。一番分かりやすいかもしれない。
こうして、俺の…神月の儀が始まった。
「」
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