第2話 《後半・河上家のイドウ》


目が覚めて、すぐに初めての感覚を覚えた。

体が軽いのだ。

そうしてベットから立ち上がると、後ろへ少しよろけてしまう。

昨日の夜は倒れるように寝た気がするから体調でも悪いのだろうか、とか考えるがそうそう体調を崩すようなやわな身体では無い。

目を擦りながら風呂場の洗面台へと向かい、水を顔にかける。


「……え?」


昨日の俺とはまるで違う声が漏れた。

洗面台にある鏡には、金髪の美少女。目や口などの顔のパーツはどことなく見覚えがあるような。


「………」


「母さんっ!」


「………」


無表情から笑顔に変わり、母さんの言いたい事が少し読み取れたが、反論する気も起きない。しかし母さんの表情が笑顔のまま変わらないんだけど。これって、もしかして驚きで止まってるけい?

そうして2人、固まっていると


「お、いたいた。えりちゃんーー」


「……」


「…そうか。わかった、持ってくる。」


「……」


洗面台の前に立ったまま、近付いて来そうだった親父は再び遠ざかる。そして変わらず母さんは廊下と風呂場の繋がっている、その真上に立っている。


「……カワイイね」


「そろそろ、そこを「おーい、言われたのを持ってきたぞ」…ちょ、親父今は」


やっと風呂場へと辿り着いた親父を今はダメと言おうとしたけど、全ては遅かった。

親父が手に持っていたのは、花柄のワンピースだったからだ。


「おお、これはまた可愛くなったなぁ」


「………?」


「これに着替えて…いや、着替えられる?って言ってる。」


少し顔を赤く染めた親父は母さんの言っている事を伝えてくれた。って、今更だけど母さんの言ってることがよく分かるものだよ。

…ん?

これに着替える意味ってある?


「別にそれを着なくても……」


「可愛くなった息子を見たいだけに決まってるだろ?ほら、急いで着替えて」


「…あっ」


今、気付いた。衣服類は全て送ったとは嘘だったのだと。本当は、男物の服を全て処分したのだと。つまりは戻る道すら残されていなかったのだ。

俺は渋々そのワンピースを受け取り着る事にする。



それから数分後。

洗面台の前には…思わずカンカン帽を被せたくなる、そんな美少女が立っていた。


「うん、可愛いね」


「……」


親父よ、それが昨日まで男だった俺にかける言葉か。そして母さん、無言で俺にカメラを向けないでくれ。


「透も着替えた事だし、出るぞ」


「………」


「分かってるって。カルパスはもう買ってあるから」


窓を占め、クローゼットなどを開けた後、家は閉ざされた。鍵を家主へ…ではなく、管理人さんに手渡して引越しの全てが終わる。

俺は、かくして産まれてから過ごした家から引っ越したのだった。


────────────────────


※訂正

お気づきの通り、河上透の母の名前が間違っています。

理英奈 → 英理奈

です。

えりちゃんと呼ぶのは、親父さんの禅のみです。

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