第1話 《 後々半・親友のカレ 》



親友の真琴の家を出てしばらくしても

感情が爆発しそうだった。

何せ、女の子と思っていたのが男の子でガッカリしてた彼に女装癖があったのだから。


「…シャ!」


声のないガッツポーズをした。それでもまだ感情を抑えられないのは、それほどに嬉しかったのだろう。これから留学して離れてしまうのは悲しかったけどアレを聞けたのだ。幸運だった。


「しかし、親父…急に転勤だなんてなぁ」


遥はまだその理由を聞いていない。

けれど、現在そんな事を考えれるほど遥は冷静で無かった。

家を断ち切るように出たのは感情を抑える為ではあったが、もう明日には出立するのでその準備をするからという方が正しい。


「さてと、買い物して帰るかな」



刻、2時間後。

みっちりと買い込んだ日本製着衣を持ちながら帰宅すると、親父と母さんがソファに座って俯いていた。明らかにテンションが低い。

もしかして、門限が…そう思って掛け時計を見るがまだ五時半、そうでは無い。ではどうして…?

考えにふけろうと思ったその時、親父が口を開いた。


「なぁ、お前最近変わったことは無いか?」


「いや、普通だけど?」


「そうか……明日9:00には出るから、そのつもりでな」


「…おう」


なんだか不自然な親父の言葉に疑問を持った。

親父は大抵…なぁどうだ!最近は!…みたいな感じでテンション高くて、おっかない人なんだけどなあ。

母さんはいつも無口だから大して変わらない印象だったけど、あれはテンションが低すぎる。



さて、読者の為に家族紹介しておこうかな。

親父の名前は、河上 禅。

白髪の目立つ老体だが、顔立ちはイケメン。

年齢は53歳ではあるが、バク転出来るし肉体年齢は若い様に思える。

めっちゃかっこいい、正直憧れる。

所謂、ロマンスグレー。

母さんの名前は、河上 理英奈。

年齢、なんと32歳。ほぼ無口で、話すことは無い。本人曰く、疲れるんだとか。

なんだかんだで、俺は母親の声を知らない。

そして、俺が河上 遥!

ルックス、運動神経のどちらもイケメン級。

惚れても致し方ないぜ。フゥー…

よし、回想終わりにして現実に戻るぞ。



部屋に入り、荷物を置いて気付いた。

スーツケース無いじゃん、と。

さっとリビングに戻って聞くしかない。


「なぁ…親父。スーツケースって何処にあるだっけ?」


「……あっ」


「…?」


俺にスーツケースの事を聞かれて、親父は驚いたという感じで口をあんぐりとさせた。

どうしたのだろうか。


「そう言えば、言ってなかったな。もう荷物は送ってあるんだよ、衣類系は全て。」


「はぁああ!!聞いてないんだけど!」


「そりゃあ、言ったの初めてだからな」


若干オーバーなリアクションだったが、それくらい驚いた。

急いでリビングから部屋に入り、タンスを開けてみた。

……中身は、空っぽ。もぬけの殻。

本当に無いじゃないか。


「親父、そういうのは早めに話してくれ」


「…ごめんよ、動揺していたんだ」


「…なぁそんなに動揺してるのは何でなんだ?」


「……!(ギクッ)」


今度はあっちがまた驚いた。驚きのラリーかよ…

こうして、俺は親父から話される事になった。



夕食が終わり、風呂も上がった後。

親父の書斎に呼ばれていた俺は、寝る準備を終えてから寝間着のままで向かった。

部屋の扉を叩くと、中から


「…入って良いぞ」


「分かった……ん?」


扉を開けると、テーブルが置かれておりその上にアルバムがいくつか並んでいる。

プラスチック製の新しいものから、和紙で作られているのだろうか茶色いアルバムすら有った。


「親父…これは?」


「俺が動揺してる理由と今回の旅目的、だ。」


「……」


クッションが置いてあったので、そこに座りつつ親父へ尋ねた。

どうやら、これが理由だと言う。

アルバムにある写真を見ると全てに付き紙があり、河上家とある。つまり…親族の写真らしい。

沢山ある中の一つに、親父を見つけた。ただ…2人写ってる? 坊主である親父の横にもう1人瓜二つの男児が居る。


「なぁ…この親父の写ってるやつ。誰と写ってるんだ?」


「双子の兄だ。」


「へぇー、え?」


窓の奥から少し見える月がにやけるように月光を差した。今度は俺の口が塞がらない。

親父に兄弟?

いやいや、双子の妹が居るとは聞いた事が…


「そうだな、その反応は正しい。えりちゃんも最初は戸惑っていた。」


「……まさか」


「突然変異さ、それも人間の。ある日突然俺の兄は女の子になっていた。すぐさま、それは秘匿されたさ。その後は転校の措置と海外転移で妹という事に書き換えられた。まぁあまり考えすぎない方がいい。それにもう過ぎたことだ、良いだろう。」


そうして、親父はとある古の出来事を語りだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る