第1話 《 後半・ 幼馴染のコイツ》


玄関先で 透 を見送った後、リビングに戻った。

そいつはまだ座っており、パソコンから目を離さないで聞いてきた。


「ねぇ、さっきの本当なの?」


「えっ?」


「だから、女装して外に出たって話よ」


いつの間にかイヤホンを傍に置いており、何故か手に包丁を持っている。

手に包丁を持っているっ!?

…冷や汗がたらりと頬をつたっていく。

どう言うのが正解なんだろう。

正直に言えば良いのかな、説明したくないんだけど。

実は母親に着せられ、遊ばれていた時に、父親から電話が来て、それからお使いを頼まれて、ただそれが駅前のデパ地下にある有名スイーツ店で、しかも…女性限定スイーツだった?

……言いたくないよ?

……どうしたものか。


「そんなに、言えないような理由?」


「え、いや…そういう訳じゃないけど」


「はぁー…つまり、私には言えないって事なのね?」


お前、口が軽そうだからな!

とも言い返せず、沈黙は続く。

再び溜息をつき、包丁をこちらに向ける幼馴染。


「い、言うから!その、物騒な包丁はしまってくれ…」


「…本当に?」


いそいそと包丁を元の場所に戻すと、俺の居るソファの方にやってきた。


「これには、深い訳がありましてね…」


かくして俺は真実を語った。

真実を聞いた美涼は急に立ち上がり、そして


「なるほど、ね。そういう訳だったのね!」


「…?」


「ねぇ、あの義母さんが居なくても女装出来たりするの?」


「それは、その、えと…」


「真琴の事だし、絶対出来るわよね??」


「……」


「…ふふーん」


ここまで読んでもらった読者さんはもうお分かりかな?

何を隠そう、こいつは情緒不安定なのだ。

いや違うな、こういうのは不思議ちゃんって言うのかな?

容姿は完璧美少女なのに、中身は読解不可能。

まぁ、猫だよな…


機嫌が治ったのか、突然ニヤけたと思ったら…

今度は前のめりになりつつ提案してきた。


「ねぇ、黙っててあげるからさ!代わりにさ、私とデートしてよ!」


「……は?」


「男女の格好だと面白くないからさ~、女装したあんたと!」


「はぁ、、、!!!」


こうして、俺と美涼の初デートが決定した。

ただし、俺女装。

…って、これさデートじゃなくない?

いや、いいのか?

……ダメだ。

しっかりと言わないと、、、


「み、美涼さん?」


「ん、なーに?」


「俺、母さんが居ないと……無理だよ?」


「…そう」


あー、見てもわかるくらい、派手に落ち込んだぁーー!

どうしよう……

どうしよう………


「…帰るわ」


「そ、そうか……」


さっきとは違って、玄関までは行かないで、そのまま見送る。

なんだって、こいつの家は隣だしね。



はぁ……

あの感じだと、あいつも、、、女装した方が好きなんかね……

少し悲しいぜ………

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