プロローグ

第1話 前半 《 俺 》

なぁ、楽園ってよく耳にするだろう?

CMでさ、ここは○○の楽園とか。

よく分からないよな、あれ。

少なくとも、俺は分からないね。


「あはは、これ面白いなぁ」


とバラエティ番組を寝転がりながら見ている。

俺は声を出し笑った。

あえて言っておくが、今は平日の真昼間だ。

まぁ、引きこもりと言うやつをしている。

軽く4年近くは経つだろうか。

中学初めに2ヶ月登校し、俺は引きこもった。

理由は些細な事だったが、ようはいじめだった。メンタルの弱かった俺は耐えきれず、今に至る。いじめの理由なんて、とうとう忘れた。

まぁ、無論思い出したくもないが。



俺、椎名真琴は男だ。

ただ、低身長と女顔が相成って女の子と間違われる。本当に困ったものだ。

高校は通信制に入って、未だに引きこもった俺と連絡し合ってるのは2人しか居ない。

1人は、幼馴染の美涼。苗字は那須川と言う。

ここだけの話、那須川は日本随一の大財閥だ。

事業は飲食店から小物店、はたや服屋までと

幅広い。だから、こそ財閥なのだろうが。

もう1人は、奇しくも俺を女と思って近づいてきた、河上透というモデルのような男だ。

本人曰く、スカウトされた事は無いそうだが、

疑問の一言でしかない。

と、回想はここまでにして…おこうかな。

どうやら、来客のようだから。

壁にかけられた時計を見るに、16時。

高校の授業が終わって、部活もしないで帰ってきたのならこの時間でも無理はない。

さすれば自ずと、誰だかは分かる。


「…なんか、用?」


「お、出た出た」


「まぁ、暇してるよね」


ほら、やっぱり。

ドアを少し開けると、そこには笑って2人の男女が立っていた。

高校に上がってから金髪に染めた、高身長のモデル体型男。はたや、茶色の艶艶しいふんわりボワストレートのスレンダーな女。

まぁ、言わずがな分かるだろ。


「…で、なんの用?」


「まぁまぁ、入れておくれよォww」


と言いつつ、既に玄関までずかずかと入ってくる美涼。そして、付いてるかのように入ってくる透。本当に似てる気がする、性格が。


「あれ、真琴…髪切ったのか?」


「うん、お母さんがね。」


「……あー、美容師なんだっけか」


そう、普通なら息子が引きこもっていれば

何かしら言うであろう両親は 気が済むまで引きこもりなさいと寛容だったのだ。

お陰で、4年経った今も継続中である。


「………」


「………」


「………」


…この2人、何しに来たんだ?

家に招き入れたなり、美涼はノートパソコンと何かを取り出して作業し出すし、透の方はスマホで何かしている。どちらも集中しているようで、こちらから話しかけないと会話が成立しなそうだ。


「…あのさー、


 これ、美琴でしょ?」


俺の言葉を遮るようにして、透がスマホを見せてきた。顔は笑ったままだが、目が完全に笑ってない。

見せてきた画面に目を向けると、写っていたのは女の人。パッチリとした顔立ちと長いストレートの銀色の髪に、白いフリル袖のノースリーブワンピース、そして茶色のジャケットを着ている。

…待て、こいつなんて言った?


「ごめん、なんて?」


「だから、これって真琴でしょ?」


「!」


自分の顔は見れないが、完全に口を閉じるのを忘れるくらいだった。

見せられた写真は少し前にお母さんが無理やり着せてきたものだった。でも、その時お母さんは誰にも見せないから安心してねと言っていたはず。

……嵌められたぁーーー!


「…確かに、俺です……」


「ふーん、いつからしてたの?」


「いつからって、言われても…なぁ」


救いを求めて、美涼の方をちらっと見ると、

さっきまではしてなかったイヤホンをして

作業してましたアピールをしてきている。

何か知っているのかもしれない。

後で、問いただしてやるか。


「まぁ、僕にとっては真琴がどうであれ

表に立てるようになったのであれば

いいんだけどね」


「……は?」


「え?」


えーと、ナニヲイッテルノかな?

……あっ!もしかして、、。


「確かに、俺あの日は外に出たけどよ

終始恥ずかしさでほとんど覚えてねぇんだわ

お前、居たのか?近くに」


「まぁね

家を覗いてたら、なんか凄い格好して

出てきたもんだから気になっちゃってさw」


「そうよ、本当に驚いたんだからねw」


気付けば、美涼もイヤホンを外して聞いていたようで笑いながら2人して答えたので、びっくりした。

ん、待て…

今なんて?

家を覗いてたら?


「んーと、家を覗いてたって言うのは?」


確かに、美涼の家は隣だし分かる。

ただ、透に関しては2駅は隣のはずだ。

…まさかとは思うが、何か隠したい事でもあるのか?

勇気を出して、問いただそうとした時

ちょうど良く町営の放送が鳴った。


「んー、5時だね。

そろそろ僕は帰るよw」


「あれ、何か言いたいことでも

あったんじゃないの?」


「あっ!そうだったよ

今度、フランスの方へ留学が決まったから

1年くらいは会えなくなるかも

って言いに来ただけだよ」


「お、そうなのか」


急に留学と言われて動揺したのか、俺は深く聞かなかった。もちろん、俺の女装に関して深く聞いて来なかった事へと恩返しとも言えるが。


「じゃあな」


素早く帰る用意をした透に見送るよと言ったら、そんな必要はないよと返された。

まさか、これが俺と透との最後の会話になるとも知らずに…。

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