10話 秘密の回路と悦なリリン

【円形競技場にて】(しい)



さーしゃ程ではないけど、わたしもどちらかと言うと、人見知りな方だ。

さーしゃが、課金して呼び込んだ、初対面の二人の助っ人。


2人して、わたしが、憤怒しリリンと戦ってるって言うのに、ちょいちょいわたしのおっぱいや太ももを触ってくる。


リング上で、それも女同士&味方同士で、セクハラってどうなの?


・・・とか思ってると、今度はお尻を強く揉まれた。


「ちょっと!」

睨み付けようと力士のコスプレちゃんを見たら、彼女は、さーしゃの方を見た。


さあしゃの方を見ると、彼我戦力差3:4で、戦いの外に取り残され、気まずい顔しながら立ち尽くしていた。


戦いの輪に入れず立ち尽くす、さーしゃ。

子どもの頃の孤立しがちだった、さあしゃを思い出して、胸が締め付けられた。


わたしの大好きな、さーしゃ。

この力士のコスプレちゃんは、わたしが愛するさーしゃを、気にかけていてくれたんだ。わたしは嬉しくなった。


力士のコスプレちゃんは、戦いの最中、わたしの背中に自分の背中を合わせてきた。

力士のコスプレちゃんの太ももが、わたしの太ももに触れた。

適度な弾力感と、しっとりお肌のその質感が、気持ち良かった。


ただ気持ちが良いってだけじゃなく、肌が合った。

肌と肌が、通じ合い、お互いを心地良いと感じた。


「大丈夫だ、この子」


と思った瞬間、心の扉が開いた。


肌と肌の相性の良さを、確認したわたしの心の門番が、心の扉の鍵が開けたのかもしれない。


肌が合う程度で、人を信用しちゃうわたし。

自分でも安易だと思うけど、考えたところで、人の本性なんて解らない。


それなら、わたしの心の門番の感性を信じる。

わたしの中の心の門番、無愛想で不器用だが、根は良い奴だし。


わたしの心の中にあった嬉しさが、力士のコスプレちゃんに伝わり、その嬉しさが通った道を通じて、力士のコスプレちゃんとわたしは繋がった。


嬉しさが、二人の間に、秘密の回路を開通させた。


きっとセコンドの赤備えの能力だろう。

生霊の赤備えは、物質ではない領域で使用可能な能力を持っているとか言ってた。

その能力で、わたしたちの気持ちを増幅し秘密の回路を通じて、気持ちを通わせたのだ。


チラッと赤備えをみると、自慢げな顔をしていた。ちょっとムカつく。


秘密の回路は、力士のコスプレちゃんを通じて、忍者のコスプレちゃんとも、繋がっており、忍者のコスプレちゃんに視線を送ると、彼女はニコリと笑った。


とても曖昧だけど、力士のコスプレちゃんが何を考えている事が、なんとなく解った。


テレパシーの様な奴じゃなく、もっと曖昧な以心伝心。

そう、タイミングが合えば勝てる!


さーしゃの元へ行くわたしを、援護するように忍者のコスプレちゃんが、憤怒しリリンを忍術で引きとめた。


「忍法!生わさびの術!」


それを忍術と言えるのか疑問だったが、鼻の穴に生わさびを詰め込まれ、憤怒しリリンは悲鳴を上げた。


しかし、それも束の間・・・


「ふっ ふっ ふっ」


憤怒しリリンの悲鳴は、徐々に歓喜の叫びへと変わっていった。


「ふぉっ ふぉっ ふぉっ」


憤怒しリリンは、涙を流しながらも、満面の笑顔で立ち尽くしていた。

ちょっと怖い。


悦に入った憤怒しリリンは、


「わたしは・・・わたしは・・・わたしは!すべての生わさびを受け入れる者」


と。なんのこっちゃ。


生わさびを鼻の穴に詰められたまま、憤怒しリリンは取ろうともしないので、涙が滝のように流れ続けている


「わたしは・・・・

すべての痛みを受け入れる者!

すべての悲しみを受け入れる者!

すべての怒りを受け入れる者!

すべての矛盾を受け入れる者!」


と、わたしたちと観客席に向かって言った。


その悦が、一部の観客に伝染し、一部の観客たちは、憤怒しリリンの台詞を復唱し始めた。


「すべての苦しみを受け入れる者!

すべての妬みを受け入れる者!

すべての報酬を受け入れ者!

すべての愛情を受け入れる者!」


復唱は絶叫に変わり、一部の観客から、すべての観客へとその叫び声は広がった。

意味が解らないし、ちょっと怖い。


とりあえずわたしは、

「雰囲気だけで、叫んでんじゃねーよ!愚民ども」

と観客を罵り、ヒールレスラーとしての仕事をした。


観客席には、女子がひしめき合っていた。

もしこれが教室で、クラスの女子たちだったら、絶対こんな事は言えないだろう。


わたしはなんて大胆な事してんだろう。

ふと我に返ると身震いがした。


憤怒しリリンが悦に入っている隙に、わたしは、さーしゃの元へ走った。


静かに笑顔を零すさーしゃ。

その清楚でか弱い笑顔は、この戦いのリングには全く不釣り合いだった。


「愛おしいよーさーしゃ」


わたしは勢いと言うか、どさくさに紛れて、さーしゃの頬にキスをした。

さーしゃは「えっ?!」と驚いた。

が、瞬時に、さーしゃとも秘密の回路が繋がった。





つづく



読んで頂き、ありがとうございますヾ(@°▽°@)ノ

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