5話 勝つためなら手段は選ばない!


【円形競技場にて】(赤備え)←語り



趣味は乗馬のお嬢様気質のスク水シーサーの里紗(さーしゃ)は、遠足用のリュックから紅茶飴と凶器と思われる馬用の鞭を取り出し、じっと見つめた。おやつは300円までは厳守されたと思われ、紅茶飴の他に駄菓子が詰め込まれていた。


里紗(さーしゃ)は、深い深呼吸をし


「間違いなくわたしは自称ヒール格闘家・・うん行ける!行けるよん!」

と。自分で「自称・・・。」と言うのもどうかと思うが、問わないでおこう。


里紗(さーしゃ)は、透き通る声で、

「我々は、勝つためなら手段は選ばない!悪く思うなよ。月の輪いんふぇるの」

と月の輪いんふぇるのに挑発した。


レスラー用のマスクを付けているにも関わらず、清楚なお嬢様オーラはまったく消えてなかったし、日焼けをしたことがないんじゃないかと思える白く柔らかな肌の美少女には不向きな言葉だ。


それでもキッと睨み付ける目は凛々しく、もしかしたら!と思わせるだけの気迫はあった。


「雌熊!行くぞ!」

(【雌熊!】は試合前に、思惟と里紗が二人で考えた挑発用の言葉だ)


里紗(さーしゃ)はリング上の月の輪いんふぇるのに、突っ込んで行った。

その勢いは凄まじく、普段の里紗(さーしゃ)とは別人格だった。


しかし、憤怒しリリンと格闘中の空手家に、軽くぶつかってしまい、まだ出来上がってない華奢な身体は、あっさり飛ばされた。


「弱!」


観客もびっくりの弱さだ。確実に平均的女子高生以下だ。

大会史上最弱は、過大広告でないらしい。


あまりの痛々しさに、セコンドの俺はすぐに駆けつけようとしたが、


「来るな!こんなのかすり傷だ」

と里紗(さあしゃ)の透き通る声で制止された。


いや・・うん、しかし・・尻もちをついただけで、かすり傷すらついてないのだが。

その澄んだ声に、憤怒しリリンは振り向いた。


そう若干、手ごたえのある【しー】より、最弱【さー】を倒す方が簡単だし、一瞬で仕留められるはずだ。と考えたのか、憤怒しリリンは、怯える自称ヒール格闘家【さー】に襲いかかった。


里紗(さーしゃ)は、自分とは違うレベルの憤怒しリリンの気迫に気付いた。

今更だが、「ここに来ちゃダメだったんだ」と気づいたのかも知れない。

里紗(さーしゃ)は、手に持つ武器?を突き出した。


「飴ちゃん、あげる。美味しいよ。」


襲いくる憤怒しリリンに、天然なのか天才なのか解らないが、里紗(さーしゃ)は、凶器の鞭ではなく紅茶の飴を差し出した。


リングだぞ!ここは!良い意味でも悪い意味でもリングだ!


この暴挙に、会場中の観客の注目が集まった。


戦う為のリングであり、エンターテイメントの為のリングでもある。

振りは受けねばならない?


紅茶の飴を差し出す対戦相手の最弱な美少女。

振りとしては、まあまあだ。


サービス精神があり過ぎる為が、憤怒しリリンはエンターテイメント性を優先し、紅茶の飴ちゃんを受け取ってしまった。

せっかくの最弱選手の里紗(さーしゃ)を倒すチャンスを失ってしまった。


「ふぉふぉふぉ!」

里紗(さーしゃ)の透き通った声が響いた。

里紗(さーしゃ)は手にもつ鞭を振り回し、素早く距離をとってしまった。


最弱少女ゆえの知恵と素早さだ。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る