第3話 エルネスティ。大地に立つ。

「お嬢様!お嬢様!エルお嬢様がお立ちになられてます!」


「まあ!エルったら!ハイハイから、もう立っち出来る様になったのね!凄いわ!流石、拳聖の娘ね!」


 親バカである。


 初めての一人立っちから、数年の時が経過する。


 親バカで在っても両親との約束を果たす為、シャルロットはエルネスティの淑女としての格を上げる為、レイスティンガー淑女院に元々入れるつもりであったが、時折見せる荒に不安を覚えたシャルロットはエルネスティを通常より早く7歳で入学をゴリ押ししたのである。


 この学院は3年掛けて立派な淑女となるよう教育プログラムが実施されている。


 それで、基本的にはデビュタントに向けて通常は13歳からの入学となるのだが。


 しかし、エルネスティは人一倍、勉学に優れていた。それはそうだろう、何せ元拳聖の記憶があるのだから伊達ではないのだ。


 教師陣からの信頼も勝ち得ていた。ダンスや立ち居振舞い等も、格闘技術の根幹は同じで、バランスや体重移動はお手の物だった。


 しかし、いくら神童と詠われようと、30年掛けて培った元脳筋。月日が立つに連れ段々とメッキが剥がれてくる。


 9歳の最終試験直前、それは起きる。


 突然の尿意である。


 慌てたエルネスティはトイレにも行かず、近くの林でお花を摘みに行く。しかし、運悪く教育指導の教師に目撃される失態を犯すことになる。


 以降、エルネスティは教師陣から目を付けられる事となり2度も卒業を逃す事となるのであった。


 そして、月日は流れ、3度目の卒業試験をエルネスティは受けていた。


「よろしいでしょう。エルネスティ・ラングレン。合格です。9年もの永きに渡る淑女としての研鑽、見事でした。何処に出しても恥ずかしくない立派な淑女ですよ。おめでとう。貴女の道がより華々しいものであることを願っています。改めて卒業おめでとう」


「あ、ありがとうございました。レイラ先生。わたくしは、先生でしたから、此処まで来ることができました。レイラ先生。……ぐすっ、今までお世話になりまた。本当に……本当にありがとうございました」


 涙が自然と共に流れ惜しまれつつも、エルネスティは学園を巣立つ事となった。


 ………………


(よっっっっしゃぁぁぁぁーーーーー!乗り切った!乗り切ったぞー!この野郎!)


{うるさい!解ってるわよ!あと、私は野郎じゃない!}


〈がうがう〉


「うっ、いや、勢いというか。すまん」


{別にいいけど。良くない}


「どっちだよ」


{私にはあんたの感情がダイレクトに伝わるから、頭痛くなるの!抑えてくれれば…別にいい。}


〈がうがう〉


「いや、うん。すまん」


{いいわよ。それと、また声に出てる}


(う、すまん。切り替え面倒くさいんだよなぁー)


{別に、あんたが変人扱いされてもいいってなら止めはしないけど}


(う、気をつけます)


〈がう?〉


{ふふ、えるふ。気にしないで}


〈がうがう!〉


「ま、いいや、とりあえず、帰りますか」


{待って。また言葉遣いが雑になってるわよ。シャルロットさんの前でそれやったら、また淑女院に戻されるわよ}


(うげ!それだけは勘弁。しかし、シャルが、あんな教育ママだったとは。トホホだよ)


{あら、良いママしてるじゃない。貴女のこと貴方の子供として恥ずかしくない立派な淑女に育て上げるんだなんて、頑張っているのだから、ふふ。貴方愛されてるわね}


「愛されてるのは知ってる」


{あら、とんだおのろけね。ご馳走様だわ}


「いえ、頑張っているのは……頑張らされているのは、この私ですよ。トホホ」


「ママー!あの、おねーちゃん一人で会話してるー面白いねー」


「しっ!見ちゃいけません」


「…………」


{…………}


〈がう?〉


「帰るか」


{そうね}



  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 ここはレイスティンガー王国、ラングレン辺境伯屋敷。


「奥様。エルネスティお嬢様が、無事レイスティンガー淑女院をご卒業されたと、先触れがございました。おめでとうございます」


「ありがとう。レイド。ふふ。漸く。漸くなのね。ハラハラさせてくれるわね。あの子ったら。でも、なんとかデビュタントまでに間に合って良かったわ。ちょっと、いえ、大分心配だったけど、流石は私とあの人の子ね。さて、お迎えの準備しなくちゃね。レイド」


「はい。奥様。全て恙無く」


「そう。ありがとう。ケイトもよくって?」


「はい。シャルロット奥様」


「では、行きましょう」


「「はい。奥様」」


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「ラングレンの地よ!私は帰って来た!」


{あーはいはい。恥ずかしいからさっさと屋敷に入りなさい。}


〈がうがう〉


(なんだよー。少しは浸らせてくれても良いじゃんかー)


{そんな事言ってシャルロットさんにバレても知らないからね}


(う、自重します)


〈がう?〉


「エルネスティ!」


「シャ、お母様!」


「お帰りなさい。エルネスティ」


「はい。お母様。只今、戻りました。それと、長い事お待たせしてしまい、大変申し訳ござませんでした」


「いいのよ、そんな事。きちんと予定内に仕上げて来たのだもの。母としても喜びもひとしおです。さあ、帰って来たばかりで疲れたでしょ。少しゆっくりしなさい」


「はい。お母様。ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きますね」


「ええ。レイド。シャルの荷物を。ケイトはお風呂を用意してあげて。ふふ。私はお茶でも入れてあげようかしら」


「お母様のお茶!久しぶりですわ。楽しみにしておきますわね!」


「ふふ。シャル。立派になって。さあさあ、早く入りましょ」


「はい!お母様!」


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 母とゆっくりと一休みした後、身を清め、晩餐を恙無くこなすエルネスティ。そんな中、ふと疑問が生じる。


「そう言えば、お祖父様とお祖母様はいらっしゃらないのですね」


「ええ、ちょうど入れ違いにお城に二人してお呼ばれされたのよ」


「なんの御用でしょうね」


「さあ、私は何も聞いてないわね」


「そうなのですか」


「ええ、それよりも、次はシャルのデビュタントの準備ね。帰って来たばかりで大変でしょうけど頑張って準備しなくちゃね。ふふふ。楽しみね」


「はい。お母様」


 ◇



「はあぁぁぁ!デビュタントだと!」


 先ほどの母との会話を[淑女教育]のスキルでこなしていたエルネスティは一人自室でまたもや難題に晒されていることを自覚する羽目になる。






 がんばれエルネスティ!負けるなエルネスティ!

 次回:パーフェクトレディにご期待下さい!

 ガン○ムファイトー!レディーゴー!









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