第9話 朝

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 ーーーーーーーーーーーー


 …………。


 ………………………。


 さて。

 朝です。

 よく眠りました。

 ご飯がすごくたのしみだわ!

 え?

 作ってた人形?

 祖国に置いてきた?

 『私にはそれが出来る』ってかっこ良く豪語していたですって?

 なんのことかしら?

 私、疲れていたのか記憶がないのよね。

 …………えぇ、そうよ。

 そうなの。

 人形作った後にベッドに入って祖国に帰って遊ぶなんてことなく、本気で寝入っていたわ。

 だから何かしら?

 何か問題でもあるのかしら?

 一切夢なんて記憶してないけれど、きっとあちらで遊んだはずなのよ。

 えぇ。

 きっとそうですとも。

 私の記憶はまっさらで一切覚えていないけれど、今日ミリーに会えれば解決する話だわ。

 私が昨日あちらで何をしていたかを問えば良いだけよ。


「そうよ、きっと私が覚えていないだけよ。だから私が術の発動をし忘れていたなんて、ありえないわ! 多分……」


 あぁ。

 自信がなくなってきたわ……。

 ま、まぁ、とりあえずご飯にしましょう。

 そして、それから考えるわ。

 壁を向いて眠っていた体を


「何が、ありえないのですか」

「それは決まっているじゃない、私がーー……」


 ちょっと待って。

 今テノールみたいな声がしたの。

 気のせいーーーー


「お嬢様。昨夜はどちらへお出かけだったのですか」


 あ……。

 嫌だわ。

 私の部屋の扉の前で、額に青筋浮かべただけでなく、口元に笑みを貼り付けてる悪魔が居るように見えるの。

 きっと、幻覚であるはずよ。

 えぇ。

 きっと私はまだ眠っているのよ。

 もう、嫌な夢。

 きっと悪夢ね。

 ということで、寝なおすわ。

 きっともう一度眠れば目が覚めるはずよ。

 ということでもう一度ベットに横になり、お布団をかぶりました。

 これでよし。

 きっとこれで目がーーーーー



 ーーーーーーーーーーーーーーーバサッ……。


「怒りますよ」


 勢い良くお布団を剥ぎ取られました……。

 もちろん、それを行ったのは、怖い顔のテノールです。

 『怒りますよ』って、もう怒ってるじゃない……。


「さぁ、お嬢様。答えなさい。昨夜、どこに行きましたか」

「あー……。えっと、何のことかしら……?」

「誤魔化せると思っているのか」


 嫌だわ。

 なんだか私が抜け出したことがバレているみたい……。

 

「あー……その、えっと……。に、人形を置いてきたの。ミリーのところにね! す、すぐに帰ってきたわ! だからテノールが心配する様なことは何も起こっていないし、起こしてもいないわ! 本当よ、信じて!」

「そうですか。誰にも告げることなく、深夜に、夜遊び、反省の色もなし……ですか……そうですか」


 彼の口だけでなく、目元にもにっこりと笑みが浮かびました。

 漆黒の瞳は射殺さんばかり……。

 あ、嫌だわ、何だか嫌な予感がするの。

 

「て、テノール……?」

「ふざけるのも良い加減にしておいてくださいね?」

「あ……。はい……ごめんなさい…………」

「良い子ですね。深夜に、誰にも告げずに家を出るなんて非常識。次はありませんよ」

「はい、ごめんなさい……」


 『良い子ですね』と、完全に笑顔を貼り付けたままのテノールが私の頭を優しく撫で、『お食事の用意ができています』そう言って部屋を出てきました。

 

「ご飯がまた、草に……」


 泣いてしまいそうです。

 もう、やっと草から解放されたと思っていましたのに……。


 私は半泣きになりつつ、テノールと入れ違いで入ってきたマリアとメイサの手を借り、着替えを済ませ、食堂へと向かった。

 この時。

 二人の顔色は蒼白で、いつもならもう少し時間がかかるのに、服選びから髪飾り、髪型が、あっという間に決まって、食堂で出された食事に、感激のあまり涙が止まりませんでした。


 私の朝食は、ふわふわの白パンに卵サラダが挟まれたものに、コンソメスープだったの。


 草ではなく、いつもの美味しい食事が用意されていて、嬉しかったの……。


 突然泣き出した私のせいで、混乱したマリアと、落ち着いて紅茶を差し出してくれるメイサに謝罪と感謝を告げた。


 二人は『大丈夫』だと笑ってくれました。

 

 私は、皆に心配を掛けすぎている様で、申し訳なく思ったの。

 だから、だからね。

 深夜、目が覚めても、寂しくなっても、黙って屋敷を抜け出したりしないって誓ったわ。

 もちろん。

 私が見たい夢を見る事は譲れないけれど、生身で深夜に出歩かないって決めたの。

 みんなに心配を掛けたくないもの。

 そうね、だから今夜もう一度試してみようと思うわ。

 それで上手くいかなければ、素直に諦める。

 

 今日はこれからミリーが来るまでに、お仕事に集中しないと。

 確か今日はこれから二人相手にしないといけなかったわね。

 

 サラ様と呼んでと言ってくださったお姉様は、私がこちらに戻ったその日のうちに【リセスティ・ルディ・ローダン】の戸籍を復活させました。


 なんでも、失効は難しいけど、復活は簡単らしいの。

 よくわからなかったからお礼だけを言っておいたわ。

 で、そこからお姉様呼びに戻ったの。

 二人なお姉様の圧に耐えられなかったわ……。

 今考えたら見えすいた嘘泣きに騙されたの。

 お姉様はどうしてあぁも嘘泣きが上手なのかしら?

 本当に、いつもいつも騙されてばかり……。

 どうすればお姉様の嘘泣きに騙されなくて済むのかしら?

 どなたかが知っていたらご教授いただきたいわ。


 「それでだな、触り心地のよい金髪で、スレンダーな美人で、瞳はもちろんグリーンだ。もちろん若い女だ。十代でも良いが色気がなくてはな。わかるだろう? それ以外は認めんぞ」


 そうキッパリと言い張るのは、でっぷりと脂の乗った中年男性。

 はちきれんばかりのお腹に、シャツと上着のボタンがはじけてしまいそう……。

 ちょっと痩せた方が健康的ね。

 なんて呑気にもやもや考えていたら、背後が物騒な気配を醸し出し……って。

 ちょっと。


「…………ルシオ、やめて」


 その手にある物騒なものしまいなさい。

 振り返らずにルシオを注意し、男性に微笑み。

 術を発動させ、少量の血が引き込まれたのち。

 男性が言っていた若い金髪のスレンダー美女ができたわ。

 まぁ、聞かなくてもこのひとの理想は読み取れたけれどね。

 勝手に話始めちゃったのですもの。

 私が話す必要性も感じらせなかったし、依頼は果たしたわ。

 

「ルシオ。あとお願いね。ちゃんとお見送りするのよ」


 暗に危害を加えるなと伝え、しっかり頷いたのを確認して、応接間を出た。

 ちゃんと言うことを聞くと思うのだけれど……。

 心配ね。

 応接間と繋がる小部屋から廊下に出てて、応接間の前にいたゼシオの方を向き、手招く。


「ゼシオ。ちょっと」


 声をかけるとゼシオは足音を立てずに近寄ってきた、


「………………」

「ルシオが何か良からぬことをしそうだから、見張っていてほしいの」


 私の言葉に、呆れた様子を見せて、ゼシオは応接間に入っていったわ。

 ルシオったら、面倒ごと起こしていないと良いのだけれど……心配ね。

 でも、ゼシオがいるから大丈夫ね。

 今日はこの依頼だけでおしまいだったから、とりあえずこの怪我を誰かに手当てしてもらわないと。


「お嬢様!」

「お疲れ様です、姫様」


 廊下を進み始めてすぐ。

 私が出てきた部屋の隣の扉が開き、マリアとメイサが出てきました。

 そしてマリアが速攻で私の出血している指先を掴んで手当てしてくれたわ。


「ありがとう、マリア」

「いえ。今日のお昼はミートパスタだそうですよ!」


 マリアがそう嬉しそうに告げたので、若干もやもやしていた気分が晴れ、微笑ましくてほっこりして、昼食に思いを馳せた。


 











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