第6話 人形なため
と、まぁ。
そんな感じで自己嫌悪に沈んでいました。
「? こんな所に人形……?」
と。
直ぐ近くで女性の声。
その声に私は、人形でも近くに落ちていたのだろうと思い。
少しだけ顔を上げた。
「え……うご……?」
藍色のロングでタイトなスカートと、袖が膨らんで、胸元には大量のフリルが飾られた長袖の白いブラウス。
ブラウスの胸元には緑色のブローチを飾って。
結い上げられた髪は銀の、深緑の瞳の女性。
手には、日陰を作っているおしゃれな白い日傘。
顔はお人形のように綺麗で、ふわっとおっとりとした顔かしら?
私はしっかりと見上げてしまっていることすら忘れて、ついついぼおっと見とれた……。
『きれい……』
「え……?」
不思議そうにきょとんとしている女性。
私は自分が声を発したことに気づくことなく、見惚れていた。
そうしていたら。
急に視界が高くなった。
『? あれ……?』
「貴女、生きているの……?」
お人形のように綺麗な方のお顔が直ぐ近くに……って!
『ほわぁぁああああ?!』
「?! な、何? どうしたの……?」
驚愕のあまり叫んでしまった私に驚いた女性。
彼女はきょろきょろと周囲を確認し、不思議そうに小首を傾げ、私に問う。
だから、どうしたら良いのか分からくて私の小首をかしげた。
「? ふふ。可愛い。まねっこしてるの……?」
『いいえ、違います。ただ、突然叫んでごめんなさい』
「え? あぁ、私のほうこそ、びっくりさせちゃってごめんね?」
『え……あ、気にしないでください』
「でも……」
『大丈夫です。何でもないので』
「そう?」
『はい』
私はそう言って、心配そうな女性に笑みを向けると、女性も微笑んでくれた。
「そうだ。隣、良い?」
『……この状態で隣と言われましても、何もありませんが…………』
そう。
私は今、女性に両脇から抱えられて宙ぶらりんなの……。
「あ。ごめんね。じゃぁ、一緒にお話ししてくれる?」
『え? お話ですか……? 私でよければ喜んで』
「よかった。で、話なんだけど――――」
と。
なごやかなお話しタイムと思いきや、左から藍色のバチバチ言ってる丸い球体状の魔力の塊が……。
私がそれを発見するより早く、女性は躱すべく。
行動を起こしていました。
……でもその際に、舌打ちが聞こえたような気がするけれど、気のせいね。
もう。
だぁれ?
(町だけれど、田舎というよりド田舎な感じの)町でこんなぶっそうなものを放つ人は……!
危ないわ!
「ちょっと!! そこの変態女装癖! なに
『お姉様? さきほどのは、お姉様ですの?』
理由次第では怒りますよ?
もう!
危ないじゃないですか!
「リース! 今すぐそいつから離れて!!」
『お姉様……。私の質問に答えて下さいませ』
「もう! そんなの良いから!! ソイツから離れなさいリース!」
『はぁ……。お姉様。この方が何をなされたというのですか?』
まったく。
突然の襲撃だなんて、失礼極まりないわ!
「そうだな。一応だか、婚約者に向かってこの仕打ちはないだろう?」
『そうですわ。お姉様。婚や――――え……? 婚約者?!』
「ん? あぁ、一応な」
「違うわ!
『え? だって貴女は―――』
『女性ですよね?』
お姉様の叫びを無視し、そう問いかけようとした私の言葉は、女性の姿を見た瞬間に消えました。
だって。
私を宙ぶらりんにしていた女性はいつの間にか。
ボタンが第二ボタンまで外れた白いカッターシャツに、黒のベルトがついた藍のスラックスをはいていて。
襟足の長い銀髪に、何かを含んだような深緑の瞳の男に変わっていたんですもの……。
……先ほどの、女性はどこへ…………?
「さて。セフィニエラ・サティ・ルフェイド。今日は何の日か、覚えているか……?」
「そうね。何かしら?
「…………」
「なにかしら?」
「はぁ……」
額に青筋が浮かんで、爆発寸前なお姉様。
……空気が重いです…………。
もちろん。
物理的に……。
ついでに絶句からため息を吐いた、衝撃発言の方は疲れたような顔ね。
この事から衝撃発言の方が振り回されている方だと、悟った。
『お姉様。いつも言っておりますが、どうか周りの方を労わってくださいませ』
「え……?
きょとんと、お姉様。
そんなお姉様に、私と男性は――
『…………え……?』
「……はぁ?」
驚愕した。
もちろん。
男性の『……はぁ?』は、とても低かった……。
きっと。
この方はお姉様で苦労しているのね……。
ついでに。
なにやら……熱い…………?
そんな気が……。
……気のせいかしら?
そう思って隣の男性を見つめた。
すると不思議なことに彼を中心に、陽炎に似た何かが揺らめいているの。
透明で、空間が歪んでいるようで……。
彼の後ろの風景がぐにゃりと歪んでいる。
……不思議ね。
まぁ。
この状況から見て。
おそらく自然現象ではなく、彼の魔力だとおもうの……。
なんて考えていたら。
彼がお姉様の名前を再びフルネームで呼んだ。
そして―――
「【眠れ】」
そう、告げた。
刹那。
怪訝そうにしていたお姉様が、その場に崩れるようにして姿勢を崩し。
煉瓦のしかれた足元に接触する前に、彼が受け止めた。
この間。
私はなにが起きたのか分からず、ポカンと見ていた。
「はぁ……。国家の重要会議の事すら、頭にないとはな……。果たして、こんなのが国に居て、本当に大丈夫なのだろうか……?」
将来が心配だ。
と。
国の将来を憂いだ男性は、私に『それでは失礼するよ』と声を掛け。
姿を消した。
……さて。
なぜかしら?
『先ほどの男性がお姉様を押し付けられている』
そういう気がするのは……。
まぁ。
私の気のせいよね!
……さて。
そろそろ現実に向き合おうと思うの。
こ こ は ど こ ?
…………この状況から早く抜け出すには、ものすごーく叱られるの覚悟で屋敷に帰るべきなのかしら……?
……でも。
絶対テノール怒ってるだろうから、長時間のお説教になると思うし。
心配し過ぎた料理長に締め上げられちゃうだろうし……。
ただでさえしゃべらない双子が全くしゃべらなくなっちゃうと思うの。
……さて。
ここで疑問が一つ。
それらの危険をおかしてまで、迷子から抜け出さなきゃなのかしら…………?
答えは――否。
私はそんな危険をおかしてまで、迷子という現実に怯えないわ!
……え?
さっき泣いてただろう?
困惑していただろう?
いやだわ!
そんなことあったかしら?
私の記憶になくてよ?
おほほほほ!
(…………若干、お姉様になった気が……)
なんてね。
嘘よ。
嘘。
心細くて泣いてたわ……。
でもね。
みんなの顔を思い出したら、そんな感情が消えたの……。
…………テノール、怖い……。
間違いなく。
お説教は二時間なんかじゃ終わらないわ…………。
という訳で。
傍目から見たら、不気味に浮かんだ人形だったのを止めて。
(直ぐ近くの)ベンチに腰掛けた不気味な人形の形をとった。
ふぅ……。
お空が青いわ……。
とても綺麗ね。
……………。
……………………。
…………………………………。
『さて。そろそろ現実を見て、行動しようかしら!』
私はそう言って気合を入れ。
ベンチからよいしょと飛び降りて、煉瓦のしかれた広場に降り立った。
それから――
「その前に。俺達に言うことがあるのでは……?」
『………………………』
い、イヤだわ。
なにやらとても恐ろしい低音が聞こえたの。
もちろん。
聞き覚えがないなんて、口が裂けても言わないわ!
だって、彼は絶対に誤魔化せないんだもの!!
で、でも。
す、少しぐらい言い訳とか言い訳とか言い訳とか言い訳とかっ!
言い訳とかをっ!
そう言うのを考えなくてはっ!!
「お嬢様……?」
『…………………………………』
ひぃ!
なんか、左目の端に男性と思しき足が!
おまけにそれを中心に藍色と黒の間みたいな、おどろおどろしい渦っぽいモノが……!
……ど、どどどどどうしよう!!
怒ってる!
テノール、すごーーっく、怒ってるよっ!!!!
このまま下手なことでも言ったら、根に持たれて数日ねちねち言われるのは間違いないわ!!
あと。
私の食事がただの草になるっ!!
それだけはイヤ!
絶対絶対ぜぇっっっったいにイヤっ!!
あ。
でも、でも……今日のこれからの計画が…………。
だけどご飯が、おやつが……。
私の生きがいがっ!!
う~~~っ!
「お嬢様? 言うことがあるでしょう」
……怖い低音…………。
私、『無駄な言い訳はするな。事実だけを話せ』って聞こえたわ……。
いやね。
テノールが思っていることと別の事をいうなんて…………。
「お嬢様。怒りますよ」
(訳)『家畜と同じ飯が食いてぇか』
うん。
それだけは絶対にやめてほしい……。
切実に…………。
『あの、ね……? その……私、皆をびっくりさせたくて―――』
「えぇ。事付けや書き置きも残さす本体のみを残して姿を消されましたからね。実に驚かせていただきましたとも」
『えっと……。お、驚いてくれたなら良か――』
「おかげさまで。屋敷中手が付けられないパニック状態で、一人残らずお嬢様探しに奔走しているため、お屋敷の事が何一つできておりませんがね」
『………………』
テノールの言葉が冷たいし、棘だらけ……。
顔?
表情?
雰囲気?
そんなもの、確認し無くても分かるわ……。
いいえ。
足元だけ見ただけで十分よ。
えぇ。
もう十分怖いわ……。
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