第五章 最終話

 ―――――――ドガァァァアンッ


 眩い光が国を覆ったかと思うと、次の瞬間にはそんな爆音が轟いた。


 私はただただ。

 

 自室の窓から外を見つめていた。


 眼下には崩れ落ちた家屋。


 塵と粉塵と化した煉瓦を敷き詰めた道。

 

 崩壊した、歴史ある石造りの橋。


 そして……今まさに崩れ落ちようとしている、物理及び魔法攻撃無効化&無力化の施された……はずの、【無敵たる壁】。

 

 そう。

各国が一目も二目も置く、城壁だ。

 

 しかし……。


 今は見る影すらない…………。




 ――――――――ゴゴゴゴゴゴォォォォ……

 


 低く轟く音。

 

 それと共に地面が揺れ。


 さらには口を開け、その上にあった城壁の一部はなすすべなどあるはずも無く、飲み込まれた。




 …………おい。

 

 誰だ。


 今、地割れ起こした奴。




 …………………なんてな。


 ……現実逃避ぐらい、許せ…………。


 


 なぁ、フィルフィリア。


 お前が戻ってきたことは喜ばしい限りだ。

 

 だがな。

 

 私と同じ父母より生まれ出でたお前が、国を壊すのは……やめてくれないだろうか…………?


 そうでなければ、修復困難な地割れだなんだといった破壊を起こすな……。 

 

 まぁ、言ってもお前は。


 お前たち母子は破壊を繰り返すのだろう?


 

 

「………………はぁ……。いっそ、失踪してしまおうか…………」



 ――――――その八日後。


 イルディオ王国の王は一枚のメモを残し、失踪した。


 メモには―――


 【もう疲れた。死なぬ故、探してくれるな。】   

  


 そう、走り書きがあった……。



 こうして、イルディオ王国の重鎮は王の失踪と、伯爵と王妹の痴話げんかによる、修復困難な大規模災害。

 

 ルフェイド侯とファラン王国第二王子による大規模破壊。


 それら全てを何とか出来る者はただ一人。


 若くして平民より成り上がり、【ルフェイド侯爵】とまで呼ばれたヴィルグリオ・マッゲイジー・ルフェイド。


 若き頃の名を、ヴィルグリオ・マッゲイジー。


 だが彼はと言うと。

 

 数分で済んでしまう仕事の依頼をこなし、使用人の娘の面倒を見つつ。


 晴れの日はテラスにて。


 雨の日は窓辺にて。


 時折思い出したように茶を啜り、菓子を一口つまむ。


 さながら隠居した年寄りの様に黄昏ている、『ひ』のつく孫娘の屋敷を、もう一人の『ひ』のつく孫娘と共に訪れ、茶を飲んでは黄昏ていた。

 

 しかし、そんなことを国の重鎮は知るはずもなく。


 城には誰かしらの叫びがこだました。



「押し付けていた私たちが悪かったので、十二分に反省したので戻ってきてください! 陛下あぁぁああ!!」



 こうして、半年。


 国家存続の危機は多くの犠牲者と、被害をだし。


 ひょっこりと戻ってきたイルディオ王と、やれやれとやってきたヴィルグリオにより、収束した。


 なんでも王は姪二人に説得され。

 

 ヴィルグリオは孫娘二人に頼まれたと語った。




 ―――――――――――


 ―――――――



 とある屋敷のテラス。

 それに腰かけ、茶を啜る二人の女性。

 

 その二人のうち金の髪の女性がふぅっと息をついた。

  

「もう、姉さんも母様もいいかげんにして欲しいよね! まったく!」

「そうね。でも、お姉様とお父様、お母様が生き生きとしておられるのは、とても嬉しい事よ?」

イライラとした表情を浮かべるミフェイアに、リスティナは微笑み、茶を啜る。

「…………元気すぎるのも、考え物。母様ったら、昔のことを掘り越して……」

「あぁ。お父様が浮気をされていたというお話?」

「えぇ。それが母様、気に入らないみたい」

「まぁ……。そうでしたの」

「はぁ。まったく、こっちとしてはいい迷惑よ……もう…………」

「ふふふ。ミフィったら。ため息は幸せが逃げちゃうわよ?」


笑うリスティナに、ミフェイアは苦虫を噛み潰したような顔をして、残りの茶を煽った。


「もう散々逃げてるからいいわ」


 こうして二人の姉妹は今日も仲良く黄昏ているのであった……。

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