第四章 最終話

「あ~あ、死んじゃった! もうちょっと頭使って頑張るかなって思ったんだけどなぁ……。ま、良いや! 誰かの幸せは誰かの代償の上に成り立つものだから、ハッピーエンドだよね!!」


 地に臥したリスティナを抱きかかえ、肩を震わせるテノールたちをはるか上空から見下ろし。

 きゃははと無邪気に笑う。

 青い髪に、赤と金のオッドアイの少女。

 そんな少女の背後。

 突如として灰色の髪に銀の瞳の青年が現れた。


「何が、良いのです? アルティファス……?」

「ん~? この話。主人公満足してるっぽいし、何より私がこの世界作ったバルを作ったんだから、私がなにしてもいいんだよ!」

「はぁ……。本当に貴方と言う人は…………反省の色がありませんね……」

「………………アレ。オカシイナ、変ナ幻聴ガ、聞コエタヨ」

「残念。幻聴ではありませんよ」

「…………………………も、もしかして……うぇ、ウェル…………?」

「えぇ。もしかしなくても、私ですよ……?」

 

 にっこりとほほ笑むウェルと呼ばれた青年。

 これに少女はさっと青ざめた。

 青年はそんな少女の両肩に手を置き、告げる。


「エルセリーネ様が、鋭い棘をあしらった鋼鉄製の棒を振り回してお待ちですよ」


 と。

 これにより、少女はガタガタと震え。

 その手を振り払おうと暴れる。


「は、離せっ!! いくら私でもあんなもの食らったら死ぬ!! いや、しばらく動けなくなる!!!!」

「あなたがそうされてもおかしくないことをしたからですよ。もうこれ以上、私を苛立たせないでください。本気で消しますよ」 


 張り付けたような笑みを浮かべた、目が本気の青年。

 少女はそんな青年を見て、グッと顔をしかめた。


「っ……! 誰だよこんなクソ餓鬼作った奴はっ!!」

「はぁ……。あなたって本当に救いようのない馬鹿ですね……」

 

 呆れ顔で額に手を当てる青年を前に、少女は唇を尖らせた。

 

「ぐっ……。し、知らないし! た、確かに転生の門壊しちゃったよ! ついでに建物と転生用の魂もだけど……。でもまさかあんな簡単に壊れるなんて思わないじゃん! てか確かにお前達作ったけど、お前は勝手に性格がねじ曲がっただけだろ……私悪くないもん!!」

「……後始末をこちらに押し付けておきながら、それですか。まぁ、いいでしょう。私はエルセリーネ様が欲しがっておられる、鉄の処女を作るだけですから」


 『ねぇ?』と問うように言って、笑みを浮かべた。

 そんな青年を、少女はぎょっとした顔で見上げ。

 目をせわしなく動かした。


「あ、え、えぇっと……ご、ごめんな、さい……。鉄の処女は…………その……勘弁してください…………。わ、わた、私が、悪かった、です……」

「そうですよね。じゃぁ、エルセリーネ様のもとに戻りましょうか」

「はい……」

 

 笑みを浮かべ、さっと姿を消した青年。

 少女は肩を落とし、盛大にため息をついて青年の後を追った。

 こうして少女は青年に連れられ、この世界を後にした。


 ―――――――――


 ――――――


 木箱から出て、青年に見張られるようにして部屋を出て行ってしばらくして。

 少女は再びこの木箱の前へとやってきた。


「あ~ぁ。エルに叱られちゃった……。でも謝ったら許してくれたし、いっか!」


 そう言い木箱を手に取り。

 少女はつまらなさそうに、ぽぉんぽぉんと片手で淡く光る小さな木箱を上に放り投る。


「にしても、つまんなかったなぁ……。もうちょっとフラグぶち込んどけばよかったなぁ。こんなすぐに終わっちゃうならさ!」


 木箱を放り投げるのをやめ、その蓋を開き。

 覗き込む。


「まったく。せっかくチャンスをやったのに、別のを生き返らせるし。訳わかんない……。この主人公絶対馬鹿だね。自分が生き返っちゃえば良かったのにさ!」


 ぷくりと頬を膨らませ、唇を尖らせ不服そうに言って。

 少女はその蓋を閉じた。


「つまんない~! もう、こんなのいーらなぁ~い」


 ぽぉんと後ろに放り投げられた木箱。


 それはふわりと、淡い光を散らしながら放物線を描き。

 固い石のようなもので出来た床に落ち。


 つなぎ目から砕けた。


「あ~ぁ、つまんないの。あ、そうだ! アイツにかまってもーらおっと!」


 少女は壊した木箱に目もくれず。

 楽しげにそう言って、鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。


 そして、壊れた木箱は光を失った……。



 * * *



 その後世界は、リスティナの死後。


 天変地異に見舞われ、数年にして全ての生命は絶命した。


ただ一人。

リスティナが呪ったあの魔導師を除いて。

 

Bad ending

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