第五章 呪われた魔導師

世界が色をなくし、命をなくし、瓦礫のみとなった。

期間は7年足らず。

俺はあの女に呪われ、溺れようが焼かれようが、四肢が千切れ、体が潰れても、一度も意識を失う事なくその度にじわりじわりと再生を繰り返し。

全ての死を見てきた。

今ここにあるモノは太陽と、緑など無い痩せ衰えた不毛な大地。

そして、其処此処に転がる白い骨。

火山の噴火と豪雨、地殻変動により大地は大きく形を変えた。

国の場所も、家のあった場所すら、もうわからない。

栄えていた王都は砂と化し。

豊かな農村は枯れ果て、海の底。

全てが変わり果てた。

それなのに、俺は死ねない。

飢えていると言うのに、飢えを通り越したせいか、何も感じない。

俺はただただ生きている。

太陽に照らされ、風に吹かれ。

地面に潰されようとも、地面が離れれば再び体が動き出す。

ひたすらに壮絶な痛みを伴って。

普通であればショック死などで既に死ねているというのに、俺は何度も蘇る。


「神よ。世界を創りし神よ。どうか、この矮小な我が身にも、終わりを与えてくれ……」


幾度も幾度も天に願う。

とうの昔に伝わらないと理解している。

だが、願わずには居られない。

己の弱さ故に。



「統治者たる神。慈しみのバルフォンよ。どうか。どうか、世界を返してくれ……」


何にもならない願いをただ口にして、いつもの様にただ繰り返し。

創造神と、神より任された世界の統治者たるかの方に訴えていた。

そう。

いつもの様に、

それなのにーーーー



『これって……どういう事?』


突然、変に反響した様な声が聞こえた。

誰もいない。

何もない、この世界に……。


「まさ、か……」


慌てて周囲を見渡したが、何もいない。

そうだ、生き物がいない事を俺はもう知っている。

それなのに、声が聞こえた。

男の声だ。



『どう、して……? 壊れ…………』



再び聞こえた声は震え、今にも泣き出しそうだった……。


「あぁ。神よ……! やっとーー」


この苦しみが終わる。

そう、確信した。



『おのれ……。おのれ、アルティファス……!』



怒気に震えた、かの声。

俺はこの時。

この世界の崩壊が、創造神・アルティファスの行いである事を知った。

そして、凄まじい地震と後。

再び怒声が響いた。



『アルッ!! 君だろ?! 俺の箱壊した奴!!!!』



凄まじい音に、地面が揺れ。

風が荒れた。

その後、何やら戸惑ったように『え? ねぇ、それーー』と、尻すぼみな声の後。

声が止んだ。

それからしばらくして。

俺は、今から7年ほど前のあの時ーー。

小隊を指揮する人間を殺すべく、矢を放ったあの瞬間に居た。


そして。

放った矢が弾かれ、俺を貫くのを感じた。

嗚呼……。

やっと、解放される。

薄れゆく意識の中。

俺は、ただひたすらに歓喜に震えた。



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