第3話 父親

 日も暮れ始めた頃。

自軍天幕にて幹部が集まり、今後の策を講じていた時。

 突如、天幕内に取り乱したように男が転がり込んできた。


「失礼いたします! 敵、魔導連射機を作動中! 傍らには魔導師と思しき男を発見。自軍魔導師、対応中っ!」


 男は片膝を着き、頭を垂れ言った。

 私はその報告におもわず目を見開き、机上の地図から顔を上げる。

 だがそれは私だけでなく。

 この場に居る者すべてがそうだった。 


「何?! 連射機だと!! っ……被害想定規模はどのくらいだ」

「おそらく……このままでは、壊滅的かと…………」


 

 この場の幹部の問いに男は答え。

 深く頭を下げた。

 その時だ。

 魔導師による通信が入り、天幕内に男の声が響いた……。


『こちら魔導師! 敵魔導連射機崩壊っ! 敵魔導師後退しました! それらの原因は不明!! ―――――っ! あれは………………人形……?』


時折金属音の様な響きを伴うそれは、 


「人形?」

「人形だと?」

「どういうことだ?」


 ざわりと場が揺らぐ。


『し、失礼いたしました。人形です。なにやら棒らしきものを所持しており、敵を後退中ですっ!!』


 魔導師の継いだ言葉に、さらに場が揺れた。

 …………人形……?

 ……まさか、リスティナ…………?

そう一瞬頭をよぎった。

 まったく。

我ながら、何を馬鹿なことを……。

 あれはもう…………この世のすべてを探そうとも、見つかるはずはないというのに……。

 嗚呼。

 私は一人娘の死を、受け入れられないだけでなく。

 ありもしない可能性を求めるとは……女々しくなったものだな…………。

 …………なぁ、リスティナ。

 もし。

 もしも本当に、お前の死が偽りならば……誠に生きてるのならば、今一度会いたいものだ……。

 そして出来ることならば、精神を病んでしまったお前の母と、その友を癒しておくれ………………。

 ……医者を呼んだことが気に入らないようで、口をきいてくれないのだ……。

 こちらは心配しての行いだというのに…………。

 リスティ……私の愛しい娘よ。

 私は。

 父様は、疲れてしまったよ…………。

 



 ―――――――――


 ―――――― 



『これで良いわ!』

  

 私はとても危険な魔導連射機を難なく破壊出来ただけでなく、魔導師を後退させることが出来。

 ついつい嬉しくて笑みが浮かんでしまいます。

 いけませんね。

 しっかりしなくては。

 …………と言うより。

 この槍、まるごとお姉様の様なモノな気がするわ……。

 何故って?

 それはね。

 『さぁ頑張って破壊しましょう』と槍を持ち替えて、振り下ろそうと構えただけで、破壊対象を粉々に壊してしまったのよ?

 信じられます?

 …………私は、信じられませんわ……。 

 ……さて。

 いったん槍の事は忘れます。

 こんな危ない槍の傍に居ては危険ですわ。

 ですが。

 彼らは国境を越えようとしています。

 それは許せませんし、見逃すことなどできません。

 お引き取り願いましょう。

 ……槍は使いませんわ。

 危険すぎますもの……。

 …………あぁ、でもこのままでは誰も聞いてくれませんね。

 だって私。

 人形ですもの。

 宙に浮いてる人形……不気味ね…………。


 …………………………嗚呼。

自分で言って凹んで居ては、いけませんね……。


 分かっています……。

 かといって本体を呼び寄せる何てこと、やったことはありません。

 何とかして本体を――――……って。

 あら?

 いつの間にか足が地面についています。

 ですが、視界は変わりません。

 変ですわ。

 槍だって大きさは変わって…………た。


「な、なんだ貴様!」

「どこから現れた!!」


と、まぁ、それぞれ驚愕の表情になった敵さん。

彼らの声と、背後にいる味方の動揺が手に取るようにわかります…………………。


 …………もう、良いわ……。

 きっとこの槍ね。

 この槍のせいなのね……。

 分かったわ。

 もうそれで良いわよ。

 気にしないから…………。

 



 * * *


 それと同じころ。

 テノールたち四人が居る屋敷はと言うと――。

 


「っ……いやぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」



 屋敷の中心。

 つまり、リスティナの部屋のドアを開けたマリアが、絶叫していた。


「だ、誰か、誰かぁぁ!!」


廊下で涙をこぼし、叫ぶマリア。

そんならしくない彼女の様子に人が集まる。


「どうした! マリア……っ?!」


駆けつけた執事服の男はマリアを助け起こし、問いかけ。

続々と駆けつけた者達は、リスティナの部屋の中を覗き、驚愕に目を見開き。

絶句した。



「お、おじょうさまが……お嬢様が…………。ぅぁ、ぁああああぁぁぁっ!!」



現状を告げようとするマリアの言葉は、言葉にならず、叫びに変わった。


 何故なら。

 屋敷の奥で大切に守ってきていた宝が。

 彼らの敬愛する主人の本体が、寝台の上でどろりと溶けていたからだ……。



 * * *

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