第三章 最終話

 真っ黒な闇の帳が薄闇へと変わりゆこうとしています。

 なぜ私がこのような時間に、リビングの大窓の前に座り込み。

 空を見上げているのかと言うと……。


 お昼にギルド長に呼び出され(二度目の強制送還というか召喚)。

 待ち構えていたギルド長とゼグロさんにその惨状を聞いたからよ……。

 まったく。

 どうしたら山に巨大な風穴が開いて、平地が高原になるのかしら……?

 はぁ……。


 だからこうして。

 国中を騒がせたお姉様と隣国の変態にお灸をすえるべく。

 帰ってきてからというもの。

 ここで、お姉様とあの変態ナルシストを待ち構えておりました……。

 まぁ。

 結果はこのように、私はミリーを見送り。

 眠ることなく朝を迎えようとしております…………。

 あぁ。

 こんなことになるのであれば、早々に部屋に行って眠っておくべきでした……。

 『後少し』とか。

 『もしかしたら私が眠ってしまった頃におこしになるのかもしれない』

 なんて。

 考えるのではなかったわ……。

 はぁ……。

 もう寝ましょう。

 今度会ったときでも遅くはないわ。

 と言うことで、部屋に戻りました。

 ふと目をやった先のローテーブル。

 その上にあのガラス玉。

 私は吸い寄せられるよう、それに触れた。

 何も写していなかったはずのガラス玉は、見慣れた墓地と一人の少年を浮かべた。


『お姉上。お姉上が……僕を嫌っているのは知っています。でも、でも……僕は。正しい貴女を尊敬しています』

 

 真摯に私の作った【私】が眠る墓の前に跪いた少年・ハワード。

 父様の色と姿を受け継いだ……私の、弟。 

 ……初めの頃はあまり好きにはなれなかったけれど、今の私は嫌いではないわ。

 私はただ。 

 責任は私といえど、母様に寄り添おうとしなかった父様に、腹を立てていただけだったのです……。  

 それに、ガラス玉を通して彼を見ているのはとても楽しかったの。

 『父様の幼いころはこのようなことをしていたのかしら』と思いをはせ。

 彼のみせる、あどけない笑顔を見るのも好き。

 とても可愛いと、思っているもの……。

 だから。

 そんなに苦しそうな顔をしないで。

 苦しまなくて良いの。

 だって貴方は、お母様が産むことが出来た子かも知れないのだから……。

 悪いのは……。


 …………すべて、私なのだから……。

 

 私が。

 私が、生まれ出でたばかりの時。

 母様に『子を授かることのできない』呪いをかけてしまったのだから……。

 悪いのはすべてこの私。

 呪いの内容は。


 『母様が授かるはずの命を何処かえと飛ばし、授からなくする』というもの。


 そして。


 母様が授かるはずの命は、別の女性が授かった命を潰し、成り変わる。


 

 ……呪いの解呪方法は、だた一つ。

 『術者の死』。

 ……だからきっと、母様は気づいているはずよ。

 私が生きていることを……。

 母様は今、どうしていらっしゃるのかしら?

 母様に会いたいわ……。

 ハッキリ願うと、ガラス玉は答えてくれた。

 

 ガラスに映った母様は穏やかな笑みを浮かべ。

 『私が結婚式で着たのよ』と見せてくれた、純白のドレスをカンナと共に仕立て直していた。


『リスティはいつ帰ってきて、『お嫁に行く』っていうのかしら?』

『そうね。お嬢様の事だもの。あなたのように突然だと思うわ』

『あら。私、そんなに突然言っていないわ』

『一週間前に言ったら突然よ』

『……そうかしら?』

『えぇ』

『……それにしても、もうすぐ完成ね』

『………………手袋とヘッドドレスにヴェール。全然できていないわよ……』

『もう……。ドレスのことよ』

『ふふふ。分かっているわ』


 母様とカンナは楽しそうに微笑み。

 再び手を動かしました。

「母様…………やはり、気づいておられたのですね……」


 ……………………。

 ……さて。

 今、私。

 いや~な予感を感じたのですが、気のせいよね?

 そうでしょう?

 父様……。

 スッと母様たちが消え。

 書斎で机に肘をつき、頭を抱えた父様が現れました。

 とても憔悴しているように見えるのですが…………気のせいですよね……?

 ついでに。

 父様のいる机に積み上げられている本。

 それは精神異常者についての本ばかりでした……。


 …………父様。


 お願いですから、落ち着いて下さい。

 そして母様とよーっく!

 お話しすることをお勧めしますわっ!!

 それから考えを改めて下さいませ!

 だって母様は精神異常者ではありませんもの……!

 ………………嗚呼。

 父様のせい(不安)で眠気が失せてしまいました……。

 


 ――――結果。

 私は完全に徹夜してしまったのでした……。

 それから数日間は不安で眠れませんでした。

 けれど。

 料理長が落ち着くお茶を出してくれて、それを飲んだら急に眠気が来てその場で眠ってしまったわ。

 次に目を覚ました時。

 三日たっていた事には驚きましたけど……。

 それ程に疲れていたのね…………。

 知らなかったわ……。

 こうして。

 私が目覚めてすぐに思ったことは『体の節々が痛い』だったわ……。

 当たり前よね。

 三日も寝ていたんだもの。

 ……まぁ。

 目が覚めてすぐに……。

 そうね。

 ……色々あったのよ…………。



 今からさかのぼる事、八時間程前。

 私は起床しました。

 いつも通りに体を起こそうとすると、体中に痛みが走ったわ。

 『変ね。おかしいわ』と首をかしげたところ――――


「ひ、め、さ……っ、姫さん! 良かった目が、目が覚めてっ……!!」


 明るかった視界が真っ暗になりました。 

 何やら息が苦しいの。

 原因は分かっているわ。

 だって体がみしみし言っているもの……。

 まぁ。

 ギリギリと締め上げられたら、当たり前ね。

 ……って。

 冷静に観察しているうちに、息が…………。

 呼吸が、上手く出来ません……。

 あぁ。

 私、このまま死んじゃうのかしら…………?

 まぁ。

 そうね。

 お姉様のなにがしかに圧迫死させられるより……マシかしら?

 

「……お嬢様から離れろ」


 なんて、低音が霞み行く意識の中で聞こえました。

 …………その低音は、確認するまでもなくテノール……。

 すごく怒ってるみたいな気配を感じたわ。

 

 ――それから一時間後。

 私は再び目覚めた時。

 無表情の双子が居ました。

 変ね。

 私、料理長とテノールにあったはず…………。

 夢だったのかしら?

 嫌に現実的だったのだけれど……まぁ良いわ。

 忘れましょう。

 今は無表情でこちらを向いている双子です。

 こちらに集中しましょう。

「おはよう。ルシオ、ゼシオ。今日も良い天気ね」

「……………………」

「……………」

「…………」

「……………」

「…………」

   ↑

 ルシオ・訳)『ついに死んだかと思ったらこれか』  

 ゼシオ・訳)『コレに常識を求めるな』

 訳)『そうだった』

 訳)『心配して損したな』

 訳)『まったくだ』


「え……? 貴方たちが、心配してくれていたの……?」


 嘘でしょう?

 何かの冗談よね?

 だってこの双子。

 まったくそんな顔してないわよ……?

 え?

 これが普通なの?

 私、いつも通りに見えるのだけど。

 と言うか。

 良くわかりません……。

 彼らが心配していた事なんてあかったかしら?

 …………あぁ。

 あったわね。

 私が過去を見た時に、目の下を真っ黒にしていたわ。

 

「………………」

「…………」

  ↑ 

 訳)『本当に失礼な奴だよな』

 訳)『諦めろ。元からだ』


 ……『失礼なのはどっちよ』って感じね。

 嗚呼。

 いつもの事だったわね……。

 この失礼な双子達は……。


 ――――――


 ――――


 まぁ。

 そんな感じで今に戻ります。

 私は今日もリビングのソファーに座ってお姉様と変態の訪れを待っています。

 もうお昼を過ぎました。

 なんでも、お姉様と変態は私が眠っている間も来ていないそうです。

 後、ミリーも……。

 私が見送ったあの夜から来ていないのですって。

 『明日はとっても早いから』

 そう言って名残惜しげに帰っていったあの子。

 ……何も、無ければ良いのだけれど…………。

 ですが。

 きっと今日は来るのではないのかしら?

 さすがに三日続けて寝ないなど、ありえないわ。



 ……けれど、私の予想に反し。

 ミリーは夜になっても来ませんでした。




 ――――翌日。

 『お姉様が隣国にさらわれた』という話を、青ざめたミフィから聞き。

 私は「お姉様にかぎって、そんなバカなことはありえない」と笑いはしましたが。

ミフィの尋常じゃない様子に不安になり。

慌ててミフィの案内を受け、料理長の力を借り、付いてくると聞かなかったテノールと双子を連れ。

 この国・イルディオ王国の王城を訪れるのでした……。


私は、この時。

王城に入った時に、ミフィがなにがしかの術を使っていた事を、知っていたのに、何も知らない________。

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