彼の提案
「……命令を守れなくてごめんなさい」
いい加減そのままというのもどうかと思ったので、とりあえず家に帰りたいと言ったらすぐに転移魔法で家に連れていかれた。
とりあえずお茶を入れていたら小さな声で謝られた。
「……うん? 命令? 君もう私の奴隷じゃないんだから、そんなの守る必要なんてないだろう?」
「…………」
なんか絶句された、あれ、私なんかおかしい?
「それはそうとして助けてくれてありがとう。なんで助けてくれたの?」
純粋な疑問をぶつける、だってもうそんなことをする理由なんてないだろうに。
「なんで……なんでって……」
「だって君はもう私の奴隷じゃないんだよ?」
「…………うん」
「だって私はもう君の主人じゃないんだよ?」
「…………うん」
「助けてくれる理由なんて一個もないじゃん。感謝はしてるけどそこんところの意味がよくわからない」
首を傾げるとまた絶句された。
しばらく彼はだんまりだった。
「…………心配だったから、じゃあ理由にならない?」
「理由にはなるかもだけど、なんで心配するの? はい、紅茶、ミルク入れる? 砂糖は入れない派だっただよね?」
ちょうど紅茶が淹れ終わったのでカップを手前に置いた。
「ど、どっちもいらない……」
「そう」
自分のカップに角砂糖を三つ投入してティースプーンでかき混ぜる。
「心配するのに、理由は必要かい……? 酷い目にあっていてほしくないという思いに、理由は……」
「なくてもいいよ別に、でもそう思われてたのが意外だったから、気になっただけ」
こんなクズを心配してくれるなんて優しいなあとか思いながら紅茶を一口。
甘さが足りないので角砂糖をもう一個追加する。
「……ねえ、これからどうするの?」
「どうするって? まあ……今回みたいのが起こることを見越して新しい護衛を雇うかなあ……最初にやらなきゃならないのはそれで、次は……」
「…………は?」
なんかめちゃくちゃ怒った顔で睨まれた。
「えっと、何かご不満?」
「……僕以外のをそばに置く気なの?」
「ええまあうん……だって君との契約切れちゃったし、それに記憶も戻ったんだろう? 調べたけど結構すごい人みたいでちょっとびっくりした……だからこの先君に守ってもらおうとは一切思ってないんだ。思ったとこでどうしようもないし。でも護衛は必要だから、なら新しい人雇うしかないじゃん?」
「…………なら僕を雇って」
よくわからない提案に思わず目を丸くする。
「え? なんで?」
「タダでいいしなんの見返りもいらないから、それに引っ越し先まだ決まってないんだろう? なら僕のところに来ればいい、部屋も結構あるし、災害が起こってもなんともないように頑丈にしてあるから」
「いやそれ君に一個もメリットないじゃん……」
「あるって言ったら、雇ってくれる?」
「あるのなら考えるけど……」
なんもなくない? メリットなんざ一個もないでしょ?
私にそんな価値はない、強いていうならちょっとお金持ちなくらいで……
でも雪斗の方が実はお金持ちなんだよな? 調べたから知ってる。
「君を一人にしておきたくないし、他の誰かに任せる気もない。何かあったらと思うと不安になって夜も眠れなくなりそうだ」
「は、はあ……? そりゃあ大変だな?」
よくわかんないなあと思っていたら、顔をずずいと寄せられた。
「と、いうわけで僕の精神の安定のために僕に守られていてほしい」
「……う、うん?」
よくわからないけど圧が強かったんlで思わず首肯すると、雪斗は嬉しそうに笑った。
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