奴隷がいなくなる
「え」
頭を失った身体が倒れる、何が起こった?
攻撃魔法っぽいものが、雪斗の頭に直撃した、ように見えた。
「記憶を取り戻したばかりで混乱しているらしいな、貴様は。――らしくもない、この程度の攻撃すら防げないとは」
船長の不機嫌そうな声が聞こえてきた、そちらを見上げて、視線を戻す。
頭のない私の奴隷だった人の姿を見る。
「ゆき……え? ゆきと……? うそ……い、やだ……なんで、やだなんで……!! し、しんじゃ……た……?」
雪斗の身体にすがりつく、どうしようどうしようどうしよう、しんじゃった?
私が声かけたから? わたしのせい?
「たわけ。この程度でその化物が死ぬか馬鹿者。そうら見ろ、もう再生が始まったぞ」
不機嫌そうな船長の声に雪斗の頭の部分を見る。
本当だった、再生してた治ってく。
「よ……よか、よかった……よかった、ほんとによかった……」
安堵で全身から力が抜ける、そういや初日で自分の手を引きちぎってすぐに再生してたもんね、
ああ、よかった、ならいい、生きてるなら十分だ。
完全に頭が再生された、あっけなく開いた目がこちらの姿を捉えて安堵に染まる。
「……無事かい、すまない…………さっきから、ずっと」
「大丈夫だから……!! もういいよもう戦わなくていい……! 知り合いなんでしょとりあえずもう戦うのやめて話し合いで解決しようよ……!!」
再生はしてもまだうまく動けないらしい雪斗が顔を歪める、そりゃそうだ頭吹っ飛ばされたんだ普通なら死んでいる。
「それがいいできる相手なら……触るな……!!」
「はい? って、うわっ!!?」
雪斗から引き剥がされて丁寧にペイッと投げられた。
引き剥がしたのは紫の刀の女の人、その人が私の顔をじーっと見つめる。
「申し訳ございません。彼は我が主の大切なご友人。あなたが彼に何をしたのか、何をさせたのは存じ上げませんが……ひとまずは不問ということで良いでしょう、見た所大した悪行など成せない方のようですし……というわけで彼の身柄は引き取らせていただきます」
「と、いうわけで、って……いやでも大事な友人って本当かどうかわかんないんだけど、だってそいつ……じゃなくてあなたの主さん、今彼の頭ブチ抜いたんだけど……友達に普通そんなひどいことできるわけないじゃん……!!」
船長のことをそいつって言ったらめちゃくちゃに睨まれたので慌てて言い直したけど、それでも最後には怒りが優った。
私には友達なんていないけど、それが普通ではなく異常であることくらいは理解できる。
私に向けられた殺意からてっきり雪斗に好意的な知り合いなんじゃないかと勝手に思い込んでいたけど、実は逆だとしたら?
それなら引き渡すわけにはいかない、何をされるのかわかったものではない。
「愚かですね。えぇえぇあなたの言い分は確かにごもっともです……ですが、わたくし達に敵うとでもお思いで?」
「…………無理だな。冷静に考えなくてもそれくらいならわかるよ。でも雪斗は本当は本当にめちゃくちゃ強いんだ。……なら私程度でも十分足止めにはなると思わない?」
虚勢だった、多分足止めできても1秒以下だ。
それでもまあ、雪斗ならなんとかなるだろうという信頼もあった。
……いつも通りなら、ではあるけど。
今は流石に――無茶かもしれない。
それでもまあ、足掻いてみるか。
私は結構傲慢なんだ、自分のものを壊されるくらいなら殺されてでも足掻いてやる。
そうでなきゃ、わざわざ奴隷を買ってまで私に敵意を向ける有象無象に対抗しようだなんて思わない。
私は生まれた時からそういう類のクズだった、反骨精神だけは一丁前なものだから生きにくくて仕方がない。
それでもそう簡単に性分は変わらないからおとなしく諦めて、そういう風に生きるしかない。
「……悪いなぁ海賊、もう一仕事してもらおうか」
そう笑った直後に雪斗が私の名前を呼んだ。
酷く焦っているような声だった。
「駄目だ……敵対するな君じゃ敵わない」
「しってる」
「……それから彼らは少なくとも僕の敵ではない、本当に友達なんだ、だから悪いようにはされないから」
「だから引き下がれって?」
「うん」
「あの船長さん、君の頭を吹っ飛ばしたんだよ? 本当に友達?」
「それでも友達なんだ……というか頭吹っ飛ばすくらいなら普段の喧嘩でよくあることだし……」
「いやそれおかしくない!!?」
「おかしくないよ。ご覧の通り僕は化物だ。頭を吹っ飛ばされても全身粉々に砕けても死なないのだもの、だからこのくらいのことは普通なんだ」
「普通……普通ねえ…………随分と狂った普通だなそれは……普通だとしても痛いだろうに」
「いや? 全然痛くないよ?」
「マジか……」
なんかもう住んでる次元が違いすぎて混乱してきた。
「だからね、ここから先もただの喧嘩の延長、君には殺し合いに見えてしまうかもしれないけど、ただのじゃれあいだから」
とかなんとかいいながら雪斗は立ち上がった、その身体が大きくふらつく。
大きくふらついたその身体を女の人が支えた。
「無茶をなさらないでください。ほら行きますよ」
そのまま女の人は雪斗を肩に担いだ。
「はなせ……」
「駄目です」
そのまま女の人はすたこらさっさと船に歩み寄って、大きくジャンプして船長の隣へ。
「では、失礼します」
女の人がぺこりと頭を下げると同時に、船がその姿を消した。
「え……ちょっと!!?」
気配がない、というか多分あれ転移魔法だと思う、多分もう近くには……
「……う、うっそだー」
一人取り残された私はその場で呆然と空を仰いだ。
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