奴隷のカレー
その日以降は特に何事もない日常が続いた。
出かければ時々誰かに襲われたが、奴隷君改め雪斗が全部なんとかしてくれた。
雪が降ったから雪斗なんて安直なネーミングセンスだったけど、本人も気に入って決めた名前だからまあそれでいいと思う。
その程度のトラブルだけで済んで、大体二ヶ月くらいたった。
引っ越し先は探していたけど、納得のいく物件がなかなか見つからなかった。
最低でも2LDK、できれば3LDKでそこそこ広めでという条件には結構合うのだけど、災害に強そうというのがなかなか難しい。
この国災害多いからなあ……どこでも何かしらあるから難しい……
「うーん……パッとしないなあ……」
「大丈夫? 少し休んだら?」
「そうするー……」
パソコンから目をそらして、パソコンの横に置いておいた袋からニッキ飴を一粒出して口に放り込む。
「食べる?」
「もらう」
もう一粒出して雪斗に渡した。
ニッキ飴は甘くてちょっとだけピリッとしている。
昔はニッキとシナモンって同じものだと思ってたけど、実はちょっとだけ違うらしいということをなんとなく思い出しながら一息つく。
「そう言えば、今日の晩御飯なんだけど」
「ん? なんかリクエストある? ちなみになんもなければキーマカレーの予定だよ」
「そう……そのキーマカレーなんだけど、僕が作ってもいい?」
「うん? どしたの急に?」
「作ってみたくなったから、じゃダメかな?」
「ふうん……」
雪斗は基本的にびっくりするほど無趣味で何もない時はいつもぼんやりしている。
何かしてみたいことがあるのなら、やってもらっても全然構わない。
それにしても料理かー……なんか面白い料理番組でも見たんだろうか、あれかな最近はやりの料理ドラマ。
「迷惑なら、べつに」
「いやいいよ。今日は任せる……作り方とかわかる? お手伝う?」
「いいのかい?」
「え? なんでダメだと思った?」
意外そうな顔をされたのがよくわからない。
「……いや、いいならいいんだ。作り方とかは理解しているから大丈夫、休んでいて」
「わかった。なんかあったら聞いてね」
「うん」
雪斗が立ち上がって台所へ、時々食材のありかを聞かれたくらいで普通に順調に調理は終了したらしい。
しばらくしたら非常に美味しそうなキーマカレーが食卓に並んだ。
「うわあ……おいしそう……」
「初めて作ったから自信はあまりないのだけど……食べてみてほしい」
「うん。いっただきまーす」
スプーンでひと匙掬って口に運ぶ。
「う、うまぁ…………!!? え、待ってすっごく美味しいんだけどほんとに初めて作ったの!!?」
めちゃくちゃ美味しかった、ドン引きするほど美味しかった、なにこれすごく美味しい。
使ってる食材は大したものじゃないはずなのに、玉ねぎはスーパーのだしカレールーもいつものだしお肉もただの普通の合挽き肉のはずなのに。
なんでこんな美味しいの?
「美味しいのならよかった」
「うんうん超美味しい、初めてでこれとか本当に才能あると思うすごいすごい……!」
最強で有能で料理上手とか完璧すぎてすごすぎるな?
感心しながらパクパク食べる、おかわりまでしてしまった。
その後片付けをして何気なくニュースをつけた。
「ん? あっ!? ちょ、雪斗これ……!!」
「どうしたんだい?」
ぼんやりと窓の外を見ていた雪斗を呼んで、テレビを指差す。
テレビには何者かの襲撃により爆発炎上した奴隷屋が映し出されていた。
雪斗を買ったあの高級奴隷屋だった。
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