黒猫な彼女と

0013

第1話

 


 二人っきりの、部屋で。


 紗綾さあやの腰に届くくらいの、艶のある黒髪を、そっと、優しく撫でる。


 僕の膝の上に乗った彼女は、あまり表情には出さないけれど、気持ちよさそうに足をぷらぷらとさせている。


 もしも、紗綾のお気に召さなかったら、そのふらつかせている足のかかとが、僕のすねを撃ち抜いているはずだ。


「……ねえ」


 丹念に髪を梳いていると、紗綾が僕に声をかけてきた。


 鈴の音のように澄んでいて、それでいて凛とした涼やかな声。


「なんだい?」


「……ちょっと、体勢が不安定なのだけれど」


 そんなことを言う。


 紗綾は、ソファに座った僕の膝に乗った状態だ。


 確かに少し不安定といえなくもないが、紗綾はこちらに体重を預けてきているのだし、よほど無理に動かなければ落ちることはなさそうだった。


 だから、それは建前なのだろう。


 けれど、僕は素知らぬフリで答えた。


「別に、大丈夫だと思うけど」


 それを聞いた紗綾が、きっ、っと目を細くする


 元々釣り目がちな彼女の眼差しが、余計に鋭くなる。


「っ! 私が不安定だって言っているんですから、そうなんです!」


「はいはい。そうなんですね。……それで、どうして欲しいのかな」


「ど、どうって……!? ……そんなの考えたらわかるじゃないですかっ!」


「んー、じゃあもう終わりにする?」


「…………っ!? そう、じゃなくて、その……」


 紗綾がもじもじと顔を赤らめてうつむいて、恥ずかしそうに、呟く。


「……抱きしめて、くれても、いいのだけれど……?」


「……ああ」


 だいたい、想像通りの要求が飛んできた。


 僕は両腕を紗綾の華奢な体に回して、きゅっと抱きしめる。


 体と体がぴったりとくっついて、女の子らしい柔らかな感触と良い匂いが僕の感覚を刺激した。


「…………っ」


 紗綾は先程よりもさらに顔を真っ赤に染めて、口を引き結んでいた。


 そこに不快の色は見えず、むしろ、どこか嬉しそうな感じがした。


 僕だって、紗綾を抱きしめているだけで、幸せだ、という想いが止めどなく溢れている。


 やっぱり、どうしようもなく、紗綾のことが好きなんだと再確認する。




 しばらく、僕と紗綾はそのままでいた。


 聞こえてくるのは、お互いの心臓の鼓動だけ。


 そんな静謐を破ったのは、紗綾だった。


「ねえ」


 始めに僕に声をかけてきたのと、同じセリフ。


 けれど、その声質はなんとも熱っぽく、甘えるようなニュアンスが含まれていた。


「……私のこと、好き?」


「うん。紗綾のことが好きだよ」


「ふふっ♪」


 上機嫌に喉を鳴らす。


「なら。……キス、するのを、許してあげますっ……!」


 そして、そんなことをのたまうのだった。


 これは、要するに、彼女のおねだりだった。


 キスして欲しい、という紗綾なりの言い回しなのである。


 僕は紗綾を膝の上からそっと降ろして、ソファに隣り合うように座った。


 そして、体を彼女の方へと向けた。


「……っ!」


 紗綾と、目と目が合う。


 潤んだその瞳が、僕を欲しいと訴えかける。


 右手を紗綾の肩に回すと、彼女はゆっくりとまぶたを閉じた。


 僕はゆっくりと、紗綾の唇に自分の唇を、重ねた。


 柔らかな唇の感触を確かめるように、顔を少しづつ動かしていく。


「……んっ、ふぅ」


 紗綾から時折、悩ましい吐息が零れる。


 その息吹が、僕の興奮をより掻き立てていく。


 合わせている唇のその隙間に、僕は舌を割り入れた。


「……っ!!」


 舌の先端同士が触れると、紗綾はびくっ、と身を震わせた。


 もし、紗綾が嫌がっているとしたら、僕を突き飛ばしているだろう。


 けれど、そうはならずに、彼女は為されるがままでいた。


 ちゅ、ちゅっ、といやらしい水音が部屋に響く。


 柔らかく、甘い紗綾の舌を味わっていると、彼女が腕を僕の体に回して、ちろちろと、向こうの方からも舌を合わせてきた。


 最初のうちは恐る恐るといった感じだったが、次第に積極的に舌を絡めてくる。


「……ん、ちゅっ♡ ちゅ、ちゅぱ♡ ……はあ♡」


 紗綾から淫らな音色が流れてくる。


 口同士での深いつながりは、意識が曖昧になるくらい、気持ち良かった。


 脳が蕩けるほどの陶酔感を、二人で共有する。


 それはまるで、猫がマタタビに溺れているような、もしくはそれ以上の快楽。


 僕らは、夢中で、お互いを求めあう。




 どれくらい、そうしていたのだろう。


「はあ、はあ……」


 キスを終えた後の、どちらのともつかぬ息遣いは、運動をしたように荒くなっていた。


 理性は完全に溶かされ、自制心などという言葉はどこかへと飛んで行ってしまった。


 僕の手は、紗綾の胸へと伸びた。


 服の裾から手を入れて、その慎ましくも、確かに女性らしさを感じられる柔らかな丘陵を、手のひらで包み込むように揉みこむ。


「……んっ♡ あっ♡」


 指が、下着越しに彼女の膨らみの頂部に触れるたび、艶めかしい鳴き声が漏れる。


「……くっ♡ ……さ、触っていいだなんて、言ってない、のに……」


「……じゃあ、ダメだった?」


「…………そんなことは、……ないのですけれど、ひゃんっ♡」


 紗綾の許可が下りると、ブラのホックを外して、直に彼女の胸に手をかけた。


 手のひらに収まる紗綾のおっぱいの、得も言われぬ柔らかさを味わいながら、彼女の敏感な部分を優しく丁寧に弄っていく。


「……くっ♡ ……んっ♡ ……はあ♡」


 何かに耐えるように体をよじりながら、甘い喘ぎを漏らす紗綾。


 すっかり上気した紗綾のその顔は、美しくも扇情的な魅力に満ちていた。


 程よいくらいで弄るのを切り上げると、紗綾は肩で息をしながら、とろんとした表情を浮かべていた。


 僕の中の熱情は、収まらないどころか、その激しさを増していく。


 紗綾のすらりと伸びた足の、きゅっと締まった太腿へと僕は手を持っていく。


 綺麗な足をより美しく魅せてくれている黒タイツを伝って、指をするりするりと這わせていく。


「……んっ、ちょっとぉ♡ ……やっ♡」


 否定的な発言に反して、紗綾の足を這いあがっていく指を、彼女は押し止めることはしなかった。


 やがて、指がスカートの裾まで行きつくと、その端を摘まんで、するすると上へと捲りあげていく。


 スカートをたくし上げていくと、黒タイツ越しに、紗綾の白い下着が露わになった。


 白いショーツの股の部分には、じっとりと水染みができているのが確認できる。


「ぅぅ……!」


 濡れているのを見られた、と知覚して、紗綾が羞恥に染まった。


 その反応がなんだか、愛おしく、無性に、嬉しかった。


「紗綾」


 僕は、彼女の名前を呼んだ。


「……続きを、してもいいかな?」


 紗綾は、もじもじを顔を伏せたまま、どこか拗ねたように、ちょっと期待するように、答えた。


「…………好きに、すればいいじゃないですか……」




 ……ああ。


 黒猫彼女は、紗綾は、今日もとても可愛い。




 そんな彼女の鳴き声を、僕はこれからいっぱい聞くことができるのだから、これが幸せという他にはないだろう。


 









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黒猫な彼女と 0013 @rainyrainyrain

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