第42話 プロローグ02
ブロッサムは、アルディオとロイの二人と一緒に家の外に居た。家の中からは、時折、笑い声や叱責するような怒号が入り混じって聞こえてくる。彼女は、そんな声を背に聞きながら苦笑を零す。
「うるさくって悪かったね」
「いや、楽しい家だな」
アルディオは、小さく頭を振るとフッと微笑を浮かべた。その様に、ブロッサムは小さく瞳を見開く。肩の荷が下りたせいか、自然と笑みを零すアルディオは新鮮だなと思えた。
ロイは、小さく眉を寄せると先ほどの褒美の件を口にする。
「本当に『黒の書』とやらだけでいいのか?」
「おや?魔導書のランクとしては、かなりの値打ちものなんだよ。普通に報酬貰うよりかなり高価だからね」
「へぇー、そんな凄いもんがあの図書館にあったなんてな」
ブロッサムは、クスリと笑みを零す。
ロイは、ふとロスメルタ図書館を思い出す。学校の宿題や課題以外では、あまり利用したことが無かった。確かに広い館内には、国の歴史書や
ブロッサムは、パチリと指を鳴らすと小さな青い石の付いたネックスレスを出現させる。それは、城の庭で拾ったクラウディアの母の形見だった。拾った時は、ネックレスの石が外れていたのだが、綺麗に直されていた。それをアルディオに手渡す。
「ああ、それと。これのネックレスお姫様に返しておいて。あと、セドリック様に直接報告して欲しい事があるんだけど」
「なんだ?」
アルディオは、ネックレスを受け取りながら小首を傾げる。
「ウチのリナが回収したクラウディア姫の部屋にあった鏡とこの“黒いドレス”の欠片」
ブロッサムは、右手の親指と人差し指で挟んだ小瓶を二人に見せる。瓶の中には、黒い流動する何かが入っていた。彼女の台詞と瓶を見やり、アルディオとロイは息を飲んで言葉を失う。
「「!!」」
「おい、まさかッ・・・」
「タダで帰ってくるわけないだろう~。しっかり欠片だけでも回収しといたんだよ」
ブロッサムは、空いている手を腰に当てると青ざめた顔で吃驚するアルディオにジト目を送る。
「だが、グラムが跡形もく焼き尽くしたはず」
「だから、燃えちゃう前にちょっとだけ回収したの」
ブロッサムは、小瓶を少し掲げると、パチリと片目を閉じて悪戯げにクスリとほほ笑む。彼女は、あの黒い塊を氷結の魔法で捉えた時、杖を持つ手に小瓶も持っていたのだ。そして、杖を向けると同時に、アルディオが塊を攻撃した瞬間に一部分だけ回収したのだ。
ロイは、頬を人差し指で掻きながら、そんな彼女に困惑気に口を開いた。
「・・・普通の女の子だと思ってたけど」
「おや、『普通』だなんて言った覚えはないけど?君達の単なる思い込みだろう。私は、見習いといえども魔法使いだよ。で、その二つの取り扱いについてだけど・・・」
ブロッサムは、肩を軽く竦めるとしれっと言い放った。そして、言葉を続ける。
「私が直接、
「しかし、何故セドリック様に直接なんだ?」
「君、今回の事件の事、おかしいって思わないのかい?」
ブロッサムは、眉根を少し寄せて首を傾げるアルディオに小さく溜息を吐く。しかし、彼女の言わんとしている事を悟ったロイは、表情を曇らせる。
「サム、それは・・・」
「まぁ、どこで誰が聞いてるか分からなから、敢えては言わないけれど・・・。無きにしもあらずだろ。私には、城の内部の人間がどこからどこまで信用出来るのか分からない。だから、直接セドリック様ご本人が知っていた方がいい」
「「・・・」」
ブロッサムは、周囲に視線を巡らせる。彼女達の周囲は、森を突っ切るように伸びる街道を除いては全面木々だ。この森は、精霊や妖精達が数多く棲む場所で、今も木々の間には、小さな光や半透明の人型のように見えるニルフ達が飛び交っている様が見える。もし、今ここに見慣れない“モノ”が居たら、彼らが騒ぎ立てるだろう。
子供の頃からこの森で育ち彼らとの交流を持ってきたブロッサムは、異変を彼らから教えてもらう事も多いのだ。しかし、彼らも静かだし、怪しい気配は感じる事は無い。
ブロッサムは、硬い表情で黙ってしまった二人に視線を交互に送り言葉を続ける。
「その上で、これらの事を“誰に話すか”はセドリック様が見極めてお話下さるだろう」
「だが、君の知り合いっていう人物だって」
アルディオが少し考えるように口を開く。今回の不可解な事件を振り返れば、ブロッサムの言う事も大きく否定は出来ないと理解出来る。しかし、そうなると、もはや誰を信用すべきか分からない。
しかし、ブロッサムは、苦笑を零して小さく肩を竦めた。そして黄金の薔薇の指輪が嵌った右手の甲を彼らに向けて掲げる。
「まぁ、君達からすればそうだろうね。でも、その方、私と同じ元リュミエールだって言ったら?」
「「!」」
「あと、これだけ複雑で難解な
二人は、黄金の薔薇に小さく目を見開く。ミハエルから聞いた話を思い出していた。
アルディオは、納得したようにコクリと頷く。
「分かった。そう報告しておく」
「うん。あとは、師匠が引き継いでくれるだろうから」
ブロッサムは、指を鳴らして小瓶をしまう。そして、手を背に回して組むと小さく笑みを浮かべる。
ロイは、後ろ頭に手を置くと苦笑を零した。
「本当に迷惑をかけたな」
「ホントだよ、まったく。だから、悪いと思ってるなら甘~い手土産くらい持ってきて欲しかったよ」
ブロッサムに悪戯げにそう言われて、アルディオとロイは顔を見合わすと笑みを浮かべた。
「今度は、そうしよう。君には、美味しい蜂蜜も頂いた事だしな」
「悪いな。俺達、そーゆ所気が回らなくって」
ブロッサムは、可笑しそうに笑いを零すと小さく手を上げる。
「フフ❤︎それじゃ、気をつけて帰ってね」
「ありがとう」
「ありがとう、サム」
二人は、同じように手をあげると笑顔でそう言って背を向けた。そんな二人の背を、ブロッサムは少しの間眺めていた。二人は、時折こちらを振り返っては手を振ってくれる。
すると、店の扉が開いてルディとキアラが顔を出す。ブロッサムは、そんな二人と二・三笑顔で言葉を交わすと店の中へと姿を消していったのだった。
ウイッチレコード 秋夜 海月 @lurireta
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