第25話 謎 謎 謎?02
ブロッサムの言葉にセドリックは、コクリと頷くとアルディオを指名する。名を呼ばれた彼は、赤絨毯に上がってくるとブロッサムの隣に肩を並べて立ち、玉座に向かって一礼する。そして、ブロッサムに顔を向けると口を開いた。
「ああ、そうだ。姫様は、何故か夜にしか現れない。だが、毎晩というわけではないんだ。いつ、何処に、どのタイミングで現れるのか分かっていない」
「文字通り『何も分からない』って事?そうなってくると、お姫様自体も『本物』じゃないって事もありうるんじゃないの?」
ブロッサムは、また小さく顎に右手をあてると視線を床へと落として眉根を寄せる。今回の事件に関して、もっと核心的な事が聞けると期待していた彼女にとっては、更に頭を捻る問題に直面する羽目になった。だが、アルディオは、彼女の台詞に異を唱える。
「それはない。ずっと姫様に仕えてきたんだ。俺は、あの方を間違えない」
ブロッサムが顔をあげると、こちらを真っ直ぐに見やるアルディオと思いっ切り目があった。そのブレない視線に、彼女は小さく息を吐く。巧妙な偽者かとも思ったが、そうでもないらしい。あるいは、言い切れるほど本物と区別がつかない偽物なのか。彼が嘘を言っているようには、到底聞こえないからだ。
ブロッサムは、小さく考えて右手の人差し指をピッとあげる。
「なら、見方を変えよう。ディア様が消える二ヶ月前って何かいつもと違うって事あった?」
唐突に話題を変えられてアルディオは、小首を傾げる
「いつもと違う?・・・いや、特に心当たりは無い」
「じゃ、消える直前か前日って何してたの?」
アルディオは、不思議そうに数回瞬きをする。何故、彼女がそんな事を聞くのか分からないが記憶の糸を辿る。
「その日は確か・・・午前中は、セバスチャン殿の授業を受けておられた。午後からは、仕立て屋やいくつかの商人が城に来訪する日だったから、ドレス用の布や装飾品などをみられていたな。大きな姿見をえらく気に入られて、部屋に運んだのはよく覚えている」
ブロッサムは、彼の話に少し呆れたような複雑な表情を浮かべる。
「・・・それって普通なんだ。一般庶民からすれば、それが普通って分からないんだけど。じゃぁ、あの将軍って人の事」
「将軍?」
「そもそも、あの人の場合は、お姫様と違ってずっと城に居たんだろう。なら、なんか変だな~的なことあったろ?」
「それなら、俺よりも彼の副官に聞いた方が早いんだが、かなりの重症で話せる状態じゃないだろう」
アルディオは、そう言って先ほど礼拝堂に飛び込んできたナナキ隊の騎士を呼びつけた。どうやら、彼も謁見の間での警備にあたっていたようで、名を呼ばれて後ろから駆けてきた。彼は、ブロッサムとアルディオの数歩後方で立ち止まると跪いく。そして、深々と玉座に頭を下げてから顔をあげると、アルディオの問に口を開いた。
「将軍でございますか?と言われましても・・・。姫様が姿を消されてから騎士達は全体的にピリピリしておりまして、将軍だけ特にとは・・・」
だが、彼はそこまで言うと、チラリとアルディオに視線を向ける。そして、言い辛そうに言葉を続けた。
「しかし、何故かアルディオ様に対してだけは、特に強くイラつきをあてられていたように感じましたが・・・」
ブロッサムは、振り返って腕を組んで騎士の話を聞いていた。そして、彼の声が途切れるとアルディオに視線だけ向ける。
「おや?キミ、何かしたの?」
「人聞きの悪い言い方をしないで頂きたい!それは多分、俺がディア様の近衛隊長を務めていたからだろう」
「なるほど」
アルディオは、小さくこめかみに怒りマークを浮かび上がらせると彼女に向かって声をげる。しかし、後半はトーンを落とすと視線をずらした。
ブロッサムは、そんな彼を見やりながら妙に納得した様子で頷いた。そして、もう少しナナキの事を聞こうと口を開きかけた。それを遮ったのは恰幅のよい元老院の男だった。
「あやつよりも、先に姫様の事じゃ!それに、化け物になるような者を将校になどにしておけん!」
ブロッサムは、質問を遮られてムッとした様子で男を振り返る。怒りを押し殺したせいで、声が少し低くなる。しかし、それは、彼らを黙らせるのには十分すぎるほどの威力を持っていた。
「将軍がああなっているって事は、お姫様もああなっている恐れがあるという可能性もあるとは思わないんですか?」
「「「!!」」」
ブロッサムの放った台詞に室内が凍り付く。隣のアルディオも背中の騎士からも、正面の元老院の面々、そして玉座のセドリック。小さく口を開けて驚愕の表情を浮かべている。
(あっ、しまった・・・)
ブロッサムは、思わず口を滑らせてしまった。クラウディアもナナキも一度は見ているのだ。両方とも正直まともには見えなかった。だから、そう感じていたのだが、セドリックの手前、直球の言葉は避けていた。しかし、元老院の男の態度につい頭に血が上ってしまった。
ブロッサムは、人知れず深呼吸する。自分の悪い癖だとは分かっている。だが、言ってしまった事を今後悔しても仕方ない。
「ま、まぁ、でもお姫様の場合、まだ理性があったかのように思えます」
(会話通じてる気はしなかったけどね)
とりあず、言い繕うが気まずくて視線を明後日の方向にわずかにずらした。そして、ゴホンッと咳払いを一つ零すと、今度は元老院の面々とセドリックに視線を巡らせる。
「あくまで推測の話ですが、神出鬼没に現れるクラウディア姫、どこからともなく城内に発生する瘴気、理性を失った将軍。これらが繋がっている可能性は高いと思われます」
ワナワナと震えるパトリックがこの世の終わりのような絶望的な顔で頭を抱えて声を上げた。
「どうしたらッ・・・どうしたのよいのじゃ!アストレアの弟子よ!!」
彼に釣られてか、周囲も不安そうにざわつき始める。しかし、そんな中でも静かに座っている人物が二人。顎に髭を携えた初老の男とシューキ。
セドリックも深く溜息を零す。
「ブロッサムよ。私もお前の意見を聞きたい。我らには、もう、どうしていいのかも分からぬのだ」
疲れ果てているセドリックの声と元老院席を見やりながら、ブロッサムの心には一抹の不安が湧き上がる。
(ホントこの国、大丈夫かな・・・)
彼女は、場の空気が少し収まるのを待ってから口を開いた。
「まず、最悪のお知らせが一つあります」
「なんだ?」
「師との連絡がまったく取れません。ですので、今回のこの件に関しまして、師の助力を願う事が出来ません。・・・そういえば、ジェラルド様は?」
ブロッサムは、ふと思い立って隣のアルディオを見やる。部屋に戻った後、キアラに頼んで何度か師へ連絡を入れてもらっていたのだ。しかし、彼の連れて出ているファミリアとは連絡が取れるものの、本人は用事で帰ってこない為、全く連絡がつかなかったのだ。
しかし、アルディオも眉間に皺を寄せて首を横に振った。
「ジェラルド様も現在この国にはいない。なんでも所要の用事があるとかで遠出されている」
(最っ悪)
顔には出さなかったが、正直叫びたいくらいの気分だった。しかも、ジェラルドのいない理由が自分の師と被っているのが余計にそういう気持ちにさせる。だが、そんな彼女の心の代弁者は意外にも近くにいた。元老院席の恰幅のよい男。彼は、頭を抱えて声を上げる。
「何故ッ、こうもタイミング悪くッ・・・」
(ホントにね~)
思いっきり相槌をしてあげたいところだ。しかし、同意は心内だけにして、ブロッサムは口を開いた。
「正直、現段階では、何も分かっておりませんので対策のしようが無いとうのが私の率直な意見です」
さすがに静まり返る謁見の間。だが、ブロッサムは、そんな中言葉を続ける。
「まずは、舞踏会の中止。そして、本格的な調査をすることを提案致します」
「舞踏会の中止だと!?馬鹿な事を言うな!これは、国の威厳をかけたイベントだぞ!!」
元老院席から驚愕の声が飛んでくる。面々に口を開いて騒ぎ立てるその様に、ブロッサムはキッと瞳を鋭くする。
「むしろ、そこにプライドのっけているのなら止める方が得策ですね。こんな状態で開いて、私がクラウディア姫の代わりを完璧にこなしたとしても、他国のお客様が危険な目に遭われるのなら、それこそ国とっては一大事な問題じゃないんですか?」
ブロッサムの隣に立つアルディオは、内心ハラハラとした様子で事の成り行きを窺っていた。彼女は時折、こちらの肝が冷えるような言葉を平気で口にする。無謀なのか度胸が据わっているのかよく分からないその様は、見ている側の心臓に悪い。ヒートアップする元老院とブロッサムのやり取りに、絨毯横に控えるロイとミハエルも彼と同じような表情を浮かべて立っていた。
そしてまた、どうしても納得いかないらしい他の議員達が次々に声を上げる。
「危険じゃない時間帯にすればッ」
「今まで運よく昼に出てこなかっただけかもしれませんよね?どんなに情報規制かけても絶対なんてありえない。むしろ、今の状態が外に漏れる方が国としては危険です」
誰かの叫んだ言葉に、ブロッサムは冷静に答えた。そんな彼女に議員達は、渋い表情を浮かべる。まだ、ざわつく議員席に、玉座からは大きな溜息が零れた。その様に、その場にいる者全員が玉座を見上げて静まり返る。
「ああ、お前の言う通りだ。だが、取りやめは出来ぬ。延期だ。して、調査とはどういことだ?城の中も街中も全部調査済みだ。お前は、一体何を調べるというのだ?」
「もちろん、お城の中だけですよ。そもそも、城の外にクラウディア様が出没した事ってあるんですか?」
「城内の庭等にはあったが、城の敷地外からの報告はなかった」
(おや、適当にかまかけてみたけど大当たりか)
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