第9話 将軍
アルディオは、広い城内を足早に歩いていた。時折、すれ違う使用人達がそんな彼に軽く頭を下げる。アルディオも軽く挨拶は返すが歩むスピードは緩めない。そして、目的の部屋へと着くとノックもせずに足を踏みいれる。そこは、城内にいくつか存在する騎士達の駐屯所。誰のものと決まっているわけではないのだが、暗黙の了解で駐屯所にはいくつかの勢力図が存在する。
騎士団のトップは、アルディオの父であるジェラルドだが、その下には四人の将校が存在する。別段、彼らが仲が悪いという事はないのだが、彼らの部下達が水面下では妙なライバル心で張り合っているのだ。その為、自ずと自分が所属する騎士団達が多い駐屯所に集まるようになったのだった。
クラウディア姫付きの近衛兵であるアルディオやロイは、騎士団の中では姫付きの近衛という事もあり、四将校達とほぼ同列の扱いを受けている。アルディオが足を踏みいれたのは、四将校の内、現在城の守備を任されているナナキの部下達がいる駐屯所だ。他の将校達は、王の名を受け、部下の大半を残して各々各国に使いに出ていた。
アルディオが扉を潜った先には広間があり、その広間には更にいくつかの扉が存在した。扉の向こうは、騎士達が仮眠をとれる部屋がある。城内の警備等で寝泊まりをしなければならない事がある為、このような駐屯所が設けられていた。しかし、城内に住み込みで働いている者も多々いるし、騎士団でも位の高い者は、城下に立派な屋敷を持っている者達も多い。そのせいか、駐屯所は、ほぼこの広間部分のみを使用する事の方が多かった。
広間には、数十人ほどの騎士達がいる。見た所、幾人かは休憩中か交代要員だろう。アルディオは、その中で少し険しい顔で何やら数人の騎士達と話をしている男に迷わず声をかけた。現在、城に残る四将校の副官だ。
「将軍は、どちらに?」
「アルディオ様、お疲れ様です。ナナキ様は、現場をお調べになると言われてまた・・・」
副官の男は、アルディオの姿に頭を下げると少し表情を曇らせて言葉を濁した。アルディオは、そんな彼の様子に少し怪訝そうに眉を小さく顰めると端的に頷いた。
「そうか。ここの所、ずっと調べられておられるようだが、何か分かったのか?」
「いえ、自分は特に何も聞いてはおりません」
「そうか・・・将軍!」
副官の男は、申し訳なさそうに頭を振った。アルディオは、無意識に右手を顎に当て何かを考えるように視線を床へと落とす。そして、小さく零すように返事をした時だった。急に覆いかぶさるように後ろから大きな影が落ちる。顔を上げ、すぐさま振り返るとその人物の名を口にする
「アルディオか・・・」
低い声でどこか忌々しそうにこちらを見下ろす大男。騎士団の制服の上からでも分かるほどの筋骨隆々で、腕一本でもアルディオの腰ほどの太さくらいありそうだ。硬そうな赤髪と同色の髭が切り揃えてあるのだが、あまり女子受けはしそうに無いほどの強面だ。騎士様とい風貌では無いが、実直で情に厚く面倒見もよい為、部下からの信頼も厚い男だった。
しかし、ナナキの強面は、更に険しく歪んでいる。明らかに彼が不機嫌である事が伺えた。そんな彼に副官の男は、不安げに瞳を揺らす。しかし、その事にアルディオは気づかなかった。
「何かお分かりに?」
「フンッ!貴様のような青二才に言った所でどうなるというのだ?」
「ですが、今回の事はッ」
ナナキは、大きく鼻を鳴らすとアルディオから顔を叛ける。しかし、アルディオは、追いすがるように彼を見上げる。その表情は、濃く自責の念に駆られていた。だが、ナナキは、こめかみに大きな青筋を立てるとその野太い指をアルディオの鼻先に突き付ける。そして、更に険しく眉根を寄せると声を荒げて言い放った。
「ああ、そうだ!!全て貴様の責任だ!!貴様がついていながら何故このような事にッ!?」
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