第4話 魔女と使い魔
謁見を行った部屋から間も置かずに連れて来られた先は、これまた無駄に広い部屋だった。そこには、落ち着いた雰囲気の中年紳士が一人ブロッサム達が来るのを待っていた。
彼は、片眼鏡にくるんとカールした口髭。そして、黒髪をピシッと固めて両脇に流し、燕尾服をきっちりと着こなしている。瞳と同様全体的に細長い印象を受ける男性だった。
そんな彼と対峙し立つブロッサムの後ろには、彼女をここまで連行してきたあの騎士二人が控えている。相変わらずの堅苦しい様に少しうんざりさえしてくる。しかし、そんなブロッサムの内心など、この場の誰もが気にも止めない。騎士二人が目の前の紳士に自分の事を簡単に紹介してくれるので、ブロッサムはペコリと小さく頭を下げただけだった。
彼は、どうやら一通りの事情は聞いていたようで、二人の話に簡単にコクリと頷くと、ブロッサムへ視線を移し軽く会釈をした。
「私め、ディア様の教育係を勤めております。セバスチャンと申すものです。さっそくですが、ブロッサム殿。ダンスは?」
「ダンス・・・って、学校の文化祭でちょこっとやるくらいですけど・・・」
ブロッサムは、何のためにここに連れてこられたかも分からない。さっぱりついていけない状況の中で、この唐突な質問に小首を傾げる。しかし、その返答は、彼の欲しい答えでは無かったようだ。やれやれといった様子で小さく息を吐かれてしまった。
「なるほど。ダンスは、まったくのド素人ということですな。では、さっそく今からレッスンに入って頂きましょう」
「今から!?」
「ハイ。なんせ時間もございませんし、舞踏会に参加される王侯貴族の方々のお名前も覚えて頂く必要がございますからね。それに・・・」
ブロッサムが吃驚した声を上げる。そんな彼女にセバスチャンは、冷静に頷きかえすだけだった。しかし、彼は、意味ありげに言葉を切るとブロッサムの頭の先から足の先までを値踏みするようにじっと見つめる。不思議そうにする彼女に彼は、細い目をカッと見開くと見下ろすように口を開いた。
「一国の姫としての立ち振る舞いも覚えて頂かなければなりません。そのように、普通の町娘では困るのです」
黙って聞いていたブロッサムの額に大きな青筋が浮き出る。彼女は、両手を腰に当てると半眼で静かに言葉を紡いだ。
「普通の町娘ナメてると、今度から酒場でも市場でもオマケしてもらえませんよ」
「・・・・」
その台詞に、場の空気が一瞬止まる。思わぬ反撃に、ブロッサムの後ろの二人もセバスチャンも返す言葉を持ち合わせていなかった。
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