アリス イン ディストピア  シロウサギは陰で哂う?!

さば・ノーブ

アリス イン ディストピア  シロウサギは陰で哂う?!


此処はディストピア。


向こう側(人間界)とは違うようです。


王宮の中では、退屈そうな女王様が執事を呼びたてているようですが?





白い・・・白く細い指先ゆびさきが呼びつける。

凍り付いたような・・冷たい指先で。


呼び出された者が、諂いながら揉み手でご機嫌をとった。


「これはこれは。女王様にはご機嫌麗しゅう・・・」


しゃっちこばって諂う者が首を垂れる。


 だらぁ~ん


白く長い両耳が垂れ下がり、上目使いの瞳に被さった。


「つまらん・・・」


諂う者に、女王が溢す。


「お前が連れて来た人形は、もう壊れてしまったぞ?」


女王の白い指先が、小さな珠を摘まみ上げる。


「これはこれは・・・お早いことで」


揉み手で応え、女王に諂う。


「お前の連れて来る人形は、直ぐに駄目になる。

 もう少し遊べぬものか?もう少し壊れぬものか?」


ついっと指に摘まんだ珠を、紅いルージュをひいた口元に宛がう。


「お望みとあらば。どのようなモノでもご用意致しますが?」


垂れた両耳の間から、紅く光る眼が見える。

揉み手を外し、片手を執事服に宛がい。


「女王陛下のお望みとあれば、どのような人形でもご用意してご覧に入れましょう」


深々と忠誠を告げるのだった。

その姿に満足したのか、女王は珠を口に含んでから。


「良いか?わらわは活きの良い人形が好みじゃ。

 直ぐに壊れてしまうようなのは、飽き飽きじゃぞ?」


細く切れ長の紅い瞳で、長い耳の執事に言い放った。


「御意・・・今より直ぐ、仕入れに向かいましょう」


深々とお辞儀した執事から眼を逸らし、女王は珠を一飲みにした・・・





謁見の場から退き下がった執事は、黒い執事服の裾を引き摺り何事かを考えてる。


「毎度毎度・・・女王様にも困ったものだ。

 こう毎晩人形を欲されては、儂達の残業代も出やせんからなぁ」


頭を抱えるというより、垂れ下がった長い耳で頭を巻いた。


「長耳族の執事なれば、どのようなご注文も聞かざるを得んが・・・」


ずるずる引っ張る裾も気に懸けず、女王の宮殿から退出する。


「このディストピアに連れて来なきゃならんな、新しい人形アリスを」


氷の宮殿の外は、まるで春の日だまりの中の様に穏やかだった。

穏やかだったが、住んで居る者達は穏やかそうには見えない。


「おい、シロウサ!おいってば、薄氷執事はくじょうもの!」


辛辣に呼び止められた執事が、声の主を観る。


「おや、ケルベロス殿?なにか御用で?」


3つの頭を持つ狂犬が、口からモスグリーンの炎を吹きかけて喋る。


「なにかじゃねぇ!俺の処にはいつ廻してくれるんだよ?」


厄介な相手が現れたとでも云う風に、シロウサ執事が眉間に皺を寄せて。


「ケルさんの所には、この前連れて来たでしょう?」


吹き掛けられた炎を手で払い除けて答える。


「冗談じゃねぇ!この前っていつの事だよ?!もう記憶にも残ってないぞ?」


噛み付かんばかりに吠えまくる狂犬に、シロウサはウンザリして指を立てる。

その数3本・・・それが意味するのは?


「すみませんがねぇ、支払いが3シュトリーム溜まってますんで。

 お支払いがお済になられましたら、ご用立てしますよ?」


懐から勘定帖を取り出して、ケルベロスに突き付けた。


「ぐっ?!それも人形を手に出来ないからだ。

 買い手に渡る前に壊れてしまうからじゃねぇかよ?」


ぐうの音も出せなくなったケルベロスが、言い繕う様にシロウサへ泣き言をのたまう。


「お前が連れて来る人形が壊れやすいのが悪いんだぜ?今度はもっとましなのを・・・」


「はいはい。私ん処に頼むのは諦めてくださいねぇ。

 文句があるのでしたら、他所に当たって貰えませんかぁ?」


ぐうの音も出なくなった狂犬が、シロウサを飲み込むくらい大口を開くが。


「判ってるでしょうけど、私は女王様の執事を兼ねておりますんで。

 人形を連れて来られる唯一の種族、長耳族なんですよねぇ?!」


ビタリと勘定帖を閉じて、吠えるケルベロスを後に歩き出した。


「ちぃっ!覚えてろよ薄情者!」


「お褒め下さり、誠にありがとうです」


シロウサ執事は紅い瞳を光らせて狂犬から別れた。




シロウサ執事が向かうのは、ディストピアと異世界を繋ぐトンネル。

女王の命令を受けて、仕事にかかるようだ。


さて?シロウサ執事がする仕事って?


「人形の選定と勧誘・・・これが毎晩ですから。

 ・・・本当にウサギ使いがキツイですよ女王様は」



黒服のシロウサ執事は懐中時計を摘まみ出して。


「只今23スペル。時間まであと残り1スペルン。人間世界では真夜中ですか」


時計の針が真上を指すまでに、仕事を終えねばならない。


「さぁ・・・忙しい、さぁ急げ!」


次元トンネルを潜り抜け、執事は異世界にんげんかいに走り抜けた。

ずるずると裾を引き摺りながら・・・







トンネルの先は・・・異世界にんげんかいだった。


「おやおや。早速見つけましたよ」


シロウサ執事が喜声きせいをあげる。

と、いうより。トンネルの先には目的地が在るのだから。


都会の真ん中。

教会やマンションが立ち並ぶ街の・・・裏。


スラムと呼ぶには適していないかもしれないが。


「つまんねぇなぁ、これっぽっちかよ?」


倒れた男を見下ろした影が、


「もうちっと持ってると思ったんだがなぁ?」


強盗を終えて抜き取った金を算段している。


「これじゃあ、遊び金にだってなりゃぁしねぇ!」


影から出て来た強盗は、紅いフードを被った・・・少女だった。


<<見つけましたよ・・・>>


少女が出た陰の中から、執事の呟くが聞こえた。


「だっ?!誰だ!見てやがったのかよ?!」


途端に赤フードの声が、シロウサへ投げられた。


「はい、しっかりとねぇ。自分の欲望に正直なのは良い事です」


陰の中からシロウサの声が零れだすと、強盗犯の少女が突っかかって来る。


「観られたとありゃー口を封じないとなぁ?!

 それとも金を差し出してくれるのかい?」


腕に自信でもあるのか、強盗の少女は素手の様だ。


「いえいえ。あなたをご招待しようと思いましてねぇ?」


陰の中から現れたシロウサ執事に、さしもの少女でも言葉に詰まる。


「こちらに来て下されば、仕事如何によっては法外なる報酬を差し上げますよ?」


陰の前で白いうさぎが紅い目を光らせている。

しかも人間の言葉を喋り、人間と同じような背広を着こんで。


「オレは気が狂ったのかな?ウサギが喋ってるぞ?」


ウサギが喋るよりも何も。

自分の前には黒いポケットゾーンが口を開いている。

真っ黒い洞窟のような・・・異世界ディストピアへの道が。


「悪いようには・・・いやいや。

 もう悪い事に手を染められていますからねぇ、お嬢さんも。

 どうです?いっそのこと身に余る富を手にしてみませんか?」


紅い瞳を光らせたウサギ執事が勧誘する。


「どうせ犯罪者として一生を終えるのならば、富を手にしてみたら如何です?」


紅い瞳に何かを忍ばせて。


勧誘された強盗犯の少女は、その瞳にのせられているとも知らず。


「仕事ってのはどんな事をすればいいんだよ?」


異世界での仕事について訊いてしまった。


「簡単な事です。さる貴婦人の、遊び相手になって頂ければ宜しいのですよ」


執事は即答する。当たり前のように。


「そうか、だったら簡単じゃねえか。その話、ノったぜ!」


少女がそう答えるのも当たり前のように。


「でしたら、ここに認証のサインを。

 この書類が貴女様の保証書にもなりますので」


シロウサは一枚の書類と、カラスの毛筆を差し出す。


「ここで良いんだな?」


少女は澱んだ瞳でペンを執る。


「はい・・・はいはい。はいっ!これで契約は完了です。

 それでは早速参りましょうか・・・シャルレット殿」


名を記した少女は、既に魂を抜き去られた様に立ち竦んだままだった。

シャルレットと書いた強盗少女の影を掴むと、シロウサ執事が陰に入る。


洞窟ともとれる影の中に入ったシロウサに影を掴まれたシャルレットも、

何も言わずに・・・何も話す事が出来なくなって同道する。


影が陰でなくなった時、シャルレットと名乗った少女の躰だけがそこに残されていた。

そう、灯りに照らされてもシャルレットの影はどこにも見つけられない。


異世界ディストピアと繋がる陰。


異世界にんげんかいからシャルレットを連れ込んだシロウサ執事は、宮殿へと駆けて行った。

裾をずるずると引き摺りながら。


「只今戻りましたぞ!今夜の人形アリスに、ございます」


女王の前に少女を連れ出す。

暗がりの中では紅いフードを被った強盗の少女だったが。


「今宵はボーイッシュにてござりますれば、斯様ないでたちにて」


女王の前に引き出されて来たシャルレットは、

軽くカールされた黒髪と蒼い瞳を見開いて、軽いナイトドレスに身を包んでいた。


自我を失った眼は光を失い、只の人形のようにも観えてしまう。


「ほほほっ!良いではないか!気に入ったぞ、今宵は楽しめそうじゃのぅ」


女王は悦に入っている。


「それは何より。それでは私はこれにて・・・・」


氷のような瞳をシャルレットに向けた女王に最敬礼したシロウサ執事が、長い耳を垂れたまま後ろに下がる。


ずるずると裾を引き摺り、屈めた姿勢のままで。


女王の前から退き下がると、扉が重い軋み音と共に閉じた。

氷付いた壁を通して、何やら地を引き摺るモノの音が聞こえる。


そして・・・シャルレットの叫び声も。


「うわぁっ?!なんだよお前は?!化け物っ!蛇の化け物だぁっ!」


悲鳴をあげて逃げているのか、それとも既に取り押さえられてしまったのか?


「やめろぉっ?!それ以上は無理だぁっ!」


断末魔の叫びを後に・・・シャルレットと呼ばれた少女の声はかき消された。


扉を前に俯いていたシロウサ執事が。


「やはり・・・もう壊されてしまいましたね?お嬢さん」


交された書類を取り出すと、そこに記された名がぼろぼろと崩れ去るのを視て嗤う。


「残念ですがねぇ、お約束の富とやらはお渡しできませんよ?

 なにせ履行出来なくなっちゃいましたからねぇ・・・ホント」


ニヤリと嗤うシロウサ執事の眼は、紅く光っている。


「儂に着けられた徒名を言い忘れてましたね。

 周りの者は薄氷はくひょうとか、薄情者と呼んでますが。

 あなたの世界にんげんかいでは、こう呼ばれているんですよ・・・

 

    <死神あくま>・・・・って、ね?!」




どす黒い影を纏い、シロウサ執事が嘲笑っていた。


ディストピアの宴は今宵も続く・・・

シロウサが呼びこんだ人形アリスの叫び声と共に・・・・




シャルレットの遺体が見つかったのは、

翌朝強盗被害に遭った男の証言からの事だった・・・



  <アリス(人形)は異世界ディストピアからは帰れない>








如何?!

ちょっぴりダークで、ちょっぴり愉快?


最期はあれですが、白ウサや設定は完全に異世界暗黒モノ。


掴まってしまえば女王の遊びに付き合わされる?

どうやれば生きて帰れるのかも謎のまま。



でわっ!今宵も陰にはご用心を!

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