第33話 リハビリロリコン村

「それで、そのフェリトとやらはどこにいったのじゃ?」


 セイレーンの少女化魔物ロリータフェリトとの少女契約ロリータコントラクトを終えた後。

 襲撃者の目的の件も一つの理由として、一先ず救世の転生者であることは伏せておくことを彼女にお願いしてから俺達は客間を出た。

 そして部屋の外で待っていた家族に中での諸々を可能な限り伝えると、母さんは俺の背後を覗き込みながらそう尋ねてきた。

 今、フェリトの姿は客間にはない。

 母さんの視界のどこにも映っていないだろう。と言うのも――。


「俺の影の中に入ってるよ。まだ人間と、少女契約した少女化魔物と顔を合わせるのが嫌なんだって。俺達は命の恩人だから大丈夫みたいだけど」

「ううむ。そうか……」


 俺の言葉に母さんは痛ましげな顔をする。

 今度は母さんにくっついているセトが不安そうに見上げ、母さんは何も問題ないと安心させようとするようにその頭を柔らかく撫でた。


「まあ、少しずつ、だな。ファイム、母さんも最初の頃は荒れてたしな」

「む、むう。それは言わぬ約束であろう。あるじよ」


 そう言えば母さんも、討伐対象扱いされて日々人間が殺しに来るような状況に陥っていた時期があったんだったか。

 フェリトの境遇に共感している部分もあるのかもしれない。


「と、ともかく、この村で過ごすのはよいリハビリになるじゃろう。ここはよくも悪くも、特に少女化魔物に優しい人間ばかりじゃからな。ロリコン村の名は伊達ではない」


 確かに、少女化魔物にとってこの村程環境のいいところは少ないだろう。

 よくも悪くも、と敢えて言ったのは生温いとも言い換えられるからか。

 しかし、分かってはいるが、未だに変な意味に聞こえるな。まあ、いいけど。


「この国なら都市でも対応は変わらないはずだけど人が多いからな。隷属させられていた他の八人の中でも半分は、すぐ都市に行くのは怖いって村に留まることになったし」


 俺が眠っている間に、そういうことになったのか。

 イリュファ、リクルに続き、例外が増える訳だ。

 その辺は意外とフレキシブルらしい。

 やはり少女化魔物には優しい、と言うか甘い。俺としては悪いこととは思わないが。


「けど、その人達はどう過ごすの?」

「わざわざ村に残る程だ。何か仕事をして貰うにも大人の人間と接するのは辛さがあるだろう。だから、体調が戻ったら子供達の遊び相手をして貰うことになっている」


 こちらもリハビリか。


「そして、あわよくば護衛に、ということでしょうね」


 父さんがぼやかした部分を率直に言うイリュファ。

 そんな彼女に母さんが困ったように軽く嘆息し、口を開く。


「セト。妾達はあちらに行っているとしよう」


 そして母さんは弟を連れてその場を離れた。

 父さんはそれを目で見送り、十分距離ができたのを確認してから口を開いた。


「護衛をつけるなんて例外中の例外だ。けど、三人は今後も狙われ続ける可能性がないとも言えない。勿論、互いの気持ち次第だけど大人は皆そうなって欲しいと思ってる」


 母さんがセトを連れていったのは、まだ怯えが残っているところにこんな話を聞かせたくなかったからのようだ。

 俺のせいでイリュファは感覚が鈍っているのだろうが、弟はまだ五歳なのだ。

 ちょっと配慮が足りない。

 いや、あるいは俺に正確な情報を手っ取り早く与えるためか。


「それに、今回の件でセトも逆に他の少女化魔物を怖がっているようだからな。こっちはこっちでリハビリしておかないとまずい」


 さすがに人間至上主義者達のようにはなるまいが。

 少女化魔物の伴侶を探すというヨスキ村特有の使命にも支障が出かねない。

 ……いや、出たら出たで仕方がないとも、前世の記憶を持つ俺は思うが。

 伴侶探しにしたってセトの気持ちが大事だし。

 性癖が性癖だから俺は普通に従うけど。


「いずれはセト達も掟に従って村を出なければならないからな」


 村の外に出ないという選択肢は……やっぱりないだろうな。

 そもそも今回、村自体が襲われた訳だし。

 箱の中に入れておけば安心安全ということにはならない。

 自分の身は自分で守れるようにならなければ。


「できれば、イサクにはもっとセト達の面倒を見てやって欲しい。今やってる、遊びを利用したトレーニングだけじゃなく、もっとちゃんと戦い方を教えたりな」

「それはいいけど……俺で大丈夫かな」


 目に見えた脅威を実感すると、途端に責任を感じる。

 勿論、彼らを鍛えるのが嫌な訳ではないが。


「エノスさんから聞いたぞ。しっかり戦えてたって。訓練用の武器を何本も壊すぐらい真面目にやってた成果だってな。それに、教えることで見えてくるものもあるだろう」


 教えることで自分も学べる。よく言われることだし、理解もできる話だ。

 そもそも父さんもエノスさんも感覚派過ぎて、今の段階からセト達を指導するには少し難があるし。イリュファはフェリトを鍛えることに専念するつもりらしいし。

 やっぱり俺がやるのが最も妥当だろう。


「分かった。けど、父さんも俺を本格的に鍛えてよ。俺ももっと強くなりたいんだ」

「……そうだな。複合発露エクスコンプレックスも使えるようになったなら、少し激しくやっても問題ないだろうし……よし。今度、父さんの必殺技を教えてやろう」


 必殺技って。

 まあ、本当にあるのなら教えて貰って損はないだろう。


「で、早速で悪いんだが、ダンやトバルの様子を見てきてくれないか? 一応大丈夫そうだが、子供同士だからこそ気づけることもあるかもしれないしな」

「うん。そうする」


 襲撃後ずっと眠っていた俺はまだその二人には会っていない。

 父さんの言うように、大人には言えない何かに悩んでいる可能性もある。

 すぐに二人のところに向かうとしよう。


「では、私達はフェリトと一緒に影に入っていますね」

「え? ついてくるのか?」

「離れてるとご主人様を守れません、です!」


 万が一の事態に備えるならリクルの言い分は間違っていない。

 襲撃があったばかりだし、彼女の複合発露的にも接触が必要だしな。


「それにフェリトだけずっと一緒なんてずるいですから」


 そんな割と真面目な理由を無に帰すようなことを言い出すイリュファ。

 フェリトは一応トラウマ的な部分で理由があるのだが。

 ……まあ、いいや。


「じゃあ、行こうか」

「はい」

「です」


 俺の言葉に頷くと、祈念魔法で空間ができている影に揃って入り込む二人。


「痛っ! ちょ、早くどきなさいよ!」

「ひゃわわ! ご、ごめんなさいですうぅ!」


 直後、フェリトの怒った声と着地にミスったらしいリクルの慌てた声が影の中から聞こえてきたのに微妙に呆れつつ、俺はダンとトバルに会いに家を出たのだった。

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