第11話 少女契約
「えっと、リクル、でいいんだよな?」
「はい、です!」
「ご主人様になってくれって、どういうことだ?
必死な表情で見詰めてくる少女、リクルに言葉の真意を問う。
「ロリ……コン? それはよく分からないですけど、私のご主人様になって下さい! です!」
「待て待て、ちょっと落ち着け」
更に身を乗り出そうとするリクルを、掌を彼女の顔の前に出して抑えようとする。
「むぎゅっ」
しかし、彼女は勢いを止められず、俺の掌に顔を突っ込ませてしまった。
微妙にひんやりした柔らかい感触は彼女の唇か。
スライムの
と言うか、一応斜め上に掲げたとは言え、結構慎重差があるのに五歳児の掌に突っ込んでくるとかどれだけ前のめりだったんだよ。
俺が身体強化してなかったら押し潰されてたぞ。
「あわわ、すみません、です」
慌てたように離れてペコペコと頭を下げるリクル。
あざといな。天然か?
まあ、今そこはいいや。
「えーっと、とりあえず何でそう思ったか最初から話してくれるか?」
「は、はい、です!」
無駄に大きく頷いて、彼女は若干たどたどしい言葉で身の上話を始めた。
「そ、その、私、スライムの中で落ちこぼれだったんです」
「スライムで落ちこぼれって……どんなのがそういう扱いになるんだ?」
「えっと、形を変えるのに時間がかかったり、ちゃんと維持できなかったり、です。後、ちょっと何かにぶつかっただけで飛び散っちゃったりとかもそうです」
成程。
詰まるところ、スライムの優劣は形状や粘性を変化させる速度と幅で決まるようだ。
言うなれば、リクルは頭も体もシャバシャバの緩々だった訳だ。
「それでいつも苛められてて……なのに、何故か
ああ……むしろスライム的には退化だな。そこだけ見ると。
「それでも、変質した私を融合すれば強くなれるかもって皆……」
「そんで追っかけ回されてたのか」
「はいです。私みたいな無能を吸収しても何の価値もないのに、です」
「いやいや、少女化魔物になったんだから、あるだろ。何かしら力が」
「えっと、何のことです?」
それは知らないのか。
少女化魔物の知識はマチマチってのは本当らしいな。
「
「よく、分かりません。です」
複合発露を持たない少女化魔物、なのか?
いやでも一つ持ってるって聞いたし……。
後でイリュファに聞いた方がいいかもしれない。
「少女化魔物になっても私、やっぱり無能なんですね、です」
落ち込んだように暗い表情で呟くリクル。
人外ロリの悲しげな表情を見るのは嫌だな。
とりあえず話を戻そう。
「で、何でご主人様なんだ?」
「あ、えっと、その……ただのスライムだった頃に、
「それなら、別に俺じゃなくてもいいんじゃないか?」
「そんなことありません! あの数のスライムをいとも簡単にあしらう強さ! 貴方様はきっと特別な方に違いありません! です!」
くっ。褒め殺しか。
俺もオタクで中二病だったこともある身。特別という言葉には少し弱い。
いや、まあ、事実として救世の転生者などという大それた重荷を背負っているが。
「それに、私じゃ他の人間さんに会うまでに死にそうです……。このままじゃ私、役立たずのゴミ屑として消えてく運命です……」
そう言ってリクルは肩を落とした。
何か随分感情の浮き沈みが激しい子だな。
合理的に考えれば、複合発露も使えない少女化魔物をつれていくのはリスクが大きい。
救世の転生者としての役割を思えば、俺についてくれば危険な目に遭うことは間違いないだろう。
とは言え、リクルの言う通り、ここで見捨てたら野垂れ死にしそうだ。
それに、そもそも少女契約はまだ絶対ではないはず。
それなりに鍛えて、キナ臭くなったら解放してやるというのも手だ。
何より、人外ロリコンたるもの人外ロリを見捨てるなど以ての外である。
「分かった。なら、リクル。俺についてこい!」
「い、いいんです?」
「ああ。少女契約を結ぼう」
押し問答になって時間を浪費するのも嫌だ。
さっさと母親の元に熊肉を運ばなければならないのだから。
と言う訳で、少し姿勢を正してコホンと咳払いする。
それから俺は羞恥心を抑え込んで口を開いた。
念のために言っておくけど、今から口にする文言を考えたのは過去の人間だからな。
「ここに我、イサク・ファイム・ヨスキと少女化魔物たるリクルとの契約を執り行う。……リクル。汝は我と共に歩み、我と同じ世界を観ると誓うか?」
「え、えと、誓います? です」
微妙に慌てながら問い気味にリクルが言う。
少女契約に必要なのは互いの言葉だ。
若干戸惑い気味でも関係ない。
それが
故に、リクルが言い終えるとほぼ同時に、その目が限界まで見開かれた。
俺の中にも彼女との繋がりが感じられ、少女契約が成功したことが分かる。
初体験、だな。
「大丈夫か?」
「え? あ、はいです。……何だか夢から覚めたみたい、です」
少女契約を結ぶことで少女化魔物は観測者として、より人間に近づく。
その認識の変化を彼女はそう捉えたようだ。
「ご主人様のお役にたてるよう頑張ります! です」
「あー、何だ。余り気張る必要はないから。何なら俺のことはイサクで構わないぞ?」
「いえ! ご主人様はご主人様です!」
グッと力を込めて主張するリクル。意外と頑固者っぽいな。
まあ、彼女がいいと言うならいいさ。そこは好きにさせよう。
別に俺が強要した訳でもないし。
正直、人外ロリからそう呼ばれるのは悪くない。
それはともかく、そろそろ当初の目的に戻るとしよう。
「悪いけど、俺はあっちの山で狩りをしないといけないんだ。ついてきて貰うぞ?」
「はいです! ご主人様とならどこまでも、です!」
「いい返事だ。なら、俺に掴まれ」
「はい、です。ご主人様」
俺の言葉に素直に頷いて、リクルはピッタリとくっついてきた。
彼女が身に纏う透明の衣が素肌に触れる。
……何か冷えたジェルっぽい。夏場は気持ちよさそうだ。
それはそれとして、後でインナーぐらいは身につけて貰わないといけないな。
俺はそんな益体もないことを考えながら、祈念魔法を再度発動させた。
「風の根源に我は希う。『纏繞』『収束』『制御』『維持』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈天父〉之〈
そして、強化を維持している身体能力を以って彼女を抱きかかえながら、再び大空へと舞い上がったのだった。
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