エピローグ α
あの衝撃的な結末を迎えたときから、一日が過ぎた。
レオナちゃんは、ボクとリーバー先輩を昨日と同じリュックに入れると、また地下鉄に乗り、それからバスに乗って、昨日と同じ学校――レオナちゃんの母校である夕陽ケ丘高校にまでやって来たのである。
もちろん――カナちゃんも一緒だった。
「あ、あのぅ……」
「なに?」
美術部の部室で部員たちの前で事の顛末を説明したレオナちゃんに向かって、現部長のレイカさんが、もぞもぞしながら質問した。
「ほら、翔先生がつぶやいてた『すべてがωになる』ってやつ……結局、どういう意味だったのかなあって」
「あ、それならね……この子たちに直接訊いてみるのがいいよ」
「それは……先輩のワンコのぬいぐるみたち!」
「そう。この子たちの口元を見て」
ボクと先輩は、レオナちゃんの右手と左手、それぞれに掴まれて持ち上げられた。そして、美術部の部員の皆さんの視線がボクらの顔の辺りに集中することになったのである。あともう少しで真っ赤になってしまうところだったけど、何とか我慢していると、先輩が人間には聞こえない周波数の声で、ボクに言った。
(コーハイ、いいから思い切り笑え)
(えーっ、そんなことしたら、ボクは動いたところがバレて、この世にいられなくなっちゃうッス!)
(大丈夫だ。人間というものは、自分の気持ちが楽しいときはぬいぐるみの顔も楽しげに、悲しい気持ちのときはぬいぐるみの表情も悲しく見えるものなのだ。気付かない)
(ほ、本当かなぁ……。でも、それじゃあ、ボクがにっかりと笑う必要もないってことじゃないっスか!)
(い、いいから。笑え!)
仕方がないので心持ち口元をほころばせると、部長さんが言った。
「あ、そうか!
「そう。そして、にっこり幸せそうに笑ってるようにも見える。つまり翔先生は、伊東先生に、そんなに肩肘張らず笑って楽しくやれるようになって欲しい、って意味でつぶやいたのよ」
「なぁるほど……! さすが、今や伝説と化したレオナ先輩ですね。私も、先輩と同じ大学に行きたくなりました」
「ちょ、ちょっと待ってよ。それはもっとちゃんと考えた方がいいって。しかしそれにしても……伝説というのが、やっぱりひっかかるわね」
部室に、9割の女子と1割の男子の笑い声が響いた。
その笑い声が収まったとき。
レオナちゃんの横に座るカナちゃんが、言った。
「レオナちゃん、そろそろ行こうか。後輩の皆さん、顧問の先生方がしばらく不在になってしまうけれど、その間は自分たちだけでがんばって!」
「はい、カナ先輩!」
「なんかカナちゃんにはみんな素直だなぁ……。まあ、いいか。じゃあみんな、私たち帰るね。あ、そうだ、カナちゃん!」
「ん? ……なぁに?」
「
「あ、それ賛成。行こう、行こう!」
クレーンゲームか――懐かしいな。
だって、なにせボクはクレーンゲームでレオナちゃんに吊り上げられ、レオナちゃんの家にお世話になることになったんだもの!
きっと、あのときと同じお店に行くんだろうな。
ボクとリーバー先輩は、レオナちゃんによって、家を出た時と同じようにリュックの中に積み込まれた。
レオナちゃんの肩へと担がれると、「じゃあね、バイバイ!」というレオナちゃんとカナちゃんのそろった声とともに、それは左右に揺れ始めた。
それから数分後。
ボクらは、意気揚々として楽し気な会話を延々と続ける二人とともに、学校の敷地から出たのである。
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