エピローグ
その日の深夜、ボクらはすやすやと眠るレオナちゃんの横に来て、またまたこっそりとその寝顔を見つめていた。
「いやあ、それにしても今日のレオナちゃんの活躍はすごかったな」
まるで、自分の娘の成長を喜ぶ父親のような目をして、先輩が呟いた。
先輩がそう言うのも無理はない。
あの勝利宣言の後、レオナちゃんは携帯電話で警察と救急車を続けざまに呼び、犯人の権藤を警察に引き渡した後、衰弱した神田さんを救急車で病院へと運ばせたのだ。また、その後の警察の事情聴取にも毅然とした態度で臨み、しっかりとした受け答えをした。
本当に疲れた一日だったろう、とボクは思う。
もちろん、ボクたちぬいぐるみもスクールバッグの片隅という位置ではあったものの、事情聴取の一部始終に立ち会ったのである。
そのときのボクたちと言ったら――小さくて丸い子犬の鼻がびょーんと伸びてしまうほどの、ホント、鼻高々な気持ちだった。
今、レオナちゃんはすべての責務を果たしたかのように、実に健やかな寝顔で熟睡のご様子だ。
「それにしてもジャージの主として疑われた他の二人は、どうして遅くまで学校にいたんスかね?」
ボクの質問に、先輩は事も無げに答える。
「美術の小田巻先生は、数学の水野とかいう先生と付き合っているそうだから、恐らくは、生徒がほとんど帰った頃を見計らって、どこぞの教室で会っていたんじゃないのか」
「えっ、そうなんスか? どうして先輩はそんなこと知ってるんスか?」
「バカ者! それでは探偵助手として失格だぞ、コーハイ。レオナちゃんのスクールバッグに入っているとき、廊下でそんな噂をしていた女子生徒の声が聞こえなったのか?」
ぜんぜん聴いてなかった……。
ボクって注意力散漫なのかな。いや、先輩の注意力が凄過ぎるのだ。
「じゃ、じゃあ、川崎君は何だったんスかね?」
「川崎君は、きっと好きな女子の机か下駄箱の中にラブレターでも入れていたんじゃないのか? 青春期の男子には、ありがちなことさ」
「ふーん、そんなもんスかね……」
そのときボクは、どうしても先輩に言っておかねばならないことがひとつだけあったことを思い出した。
「そういえば、リーバー先輩ひどいッス! 幽霊屋敷で、何も言わずにボクを突き飛ばして犯人にぶつけるなんて! レオナちゃんにも下敷きにされて、ほんと、中の綿が飛び出てくると思ったんスからねっ!!」
「おお、コーハイ、わりぃわりぃ。あの時は、ああするしか思いつかなかったのさ」
すると突然、レオナちゃんが、「ふがぁ」と声を出して寝がえりをうった。やっぱりいつもの、子犬を襲う野生の肉食獣の如き恐ろしい声だった。
や、やばいっ。
レオナちゃんにもしかしてボクたちの声が聞こえてしまったのかと思ったボクと先輩は、人間にとっては目にも止まらぬは速さで、ベッドの下に隠れた。
しーんと静まる、レオナちゃんの部屋。
どうやらレオナちゃんに見つかってしまったようではなさそうだ。
ふうぅと、ボクと先輩が胸を撫で下ろす。
「事件も一件落着したし、久しぶりにぬいぐるみのみんなと一緒に遊ぼうか」
「そうッスね。れっつら、ごおッス!」
先輩の提案に、大賛成のボク。
こうしてボクらはレオナちゃんの部屋を抜け出し、ぬいぐるみワールドと化した深夜のリビングルームへと向かったのだった。
第二話 名無しジャージの謎 ―完―
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