【2 名無しジャージの謎】

プロローグ


(これは、金縛り?)


 気がつけば、暗黒の闇の中にひとり。手も足も動かない。どうやら、紐か何かで私の両手、両足を縛られているようだ。


 冷たい床の上に、まるで新巻鮭のように転がっている、自分。

 もう春も近いというのに、やけに寒い部屋だ! 息が白い。

 そう考えたとき、遠くから物音が聞こえた。


 ギイィ、ギイィ

 まるで闇から近づく、悪魔の足音だ。

 ギイィ、ギイィ

 古い床板をきしませ、近づいてくる。

 ギイィ、ギイィ

 私のすぐそばで立ち止まった、悪魔。


 恐怖で声も出ない。

 といっても、叫んだところで、猿ぐつわを噛まされた自分には、声にならない声しか出せなかっただろうが……。

 悪魔の荒い息遣いが聞こえる。顔を近づけてきたらしい。

 そのとき窓から弱々しい月明かりが差し込んで、部屋を淡く照らし出した。


「……」


 悪魔は、何も言わなかった。

 ただ、あかく不気味に光るふたつのまなこだけが、じっと私を見据えただけだった。

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