エピローグ
また夜が訪れた。そう、ボクたちぬいぐるみの時間だ。
ボクの前には、ちょっと薄汚れて茶色いシミが付いてしまったけど、元気に走り回るペンギンのぬいぐるみ、ギンの姿があった。
――どうしてギンが生きているのかって?
簡単なことさ。
それは、ボクたちがぬいぐるみだから。そして、水にぬれてぐちゃぐちゃになっても乾けば『復活』できるから。
あの後、びしょぬれのぬいぐるみを見つけたレオナちゃんのママさんが、必死に「ドライヤー」という熱い風の出る電気の道具を使ってギンの体を乾かしてくれたのである。
「ちょっとアンタ、生き返ったからって調子に乗るんじゃないわよ!」
どなりつけるミミに、すぐさまあっかんべえを返すギン。
「困ったものだ……。さっき、仲直りをさせたばかりだというのに」
ソファーに座ったボクに近づいてきた先輩が、ふっとため息をついた。
そう――実は、人間の皆さんが寝付いたあとに動き出したボクたちは、皆で集まり、ギンとミミの二匹の手をムリヤリ結ばせて、仲直りの握手をさせたのだ。
「
「まあ、ケンカするほど仲がいい、ともいうけどな」
「まさか」
「あっははは」
ボクと先輩は、顔を見合わせて笑った。
ふと部屋の奥を見ると、レオナちゃんが幼いころ使っていたというおもちゃがごっそりと入った大きな箱からオセロゲームを取り出し、それをリビングの床に広げて遊ぶカメとメメの姿があった。カメが先行らしく、黒い石を五秒も十秒もかけながら、ゆっくりと目的の位置に持っていく。ヒツジのメメはそれを辛抱強く待ち、その後「うーん」とうなったまま、一分も二分も考え込んでいる。
「あっちは、ほんと気の長い遊びッスね」
ボクがそういうと、先輩はうれしそうに顔をほころばせた。
「まあ、平和ということだな。それはそうと……コーハイ、昨日できなかったレオナちゃんの部屋の探検に、これから行こうと思う。どうだ?」
「それは良いッスね。ならば、れっつらごおッス!」
ボクと先輩は、レオナちゃんの部屋に向かって走り出した。
そう――ボクたちぬいぐるみの時間は、まだ始まったばかりなのだ。
第一話 ペンギンの溺死 ―完―
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