後日録―ウェルネス王国記より
(前略)
アウレリアーナ王女による外征により、ソユーズ連邦は無条件降伏。
キグルス、ケルン、カラムルの三都市をウェルネスへ正式に割譲。また、多額の賠償金に加え、関税自主権の撤廃を認めた。
これの五十年後――次代の王、ショウ・ウェルネスとの条約により、ソユーズはウェルネスの傘下に加わり、ソユーズ州と名を変えることになる。
その礎として、アウレリアーナ王女が残した功績は多大なものであった。
その後、アウレリアーナは前線に出ることを控え、外交に専念。
ハーベスト大陸外の国家とも国交を結び、ウェルネス王国をさらなる発展に導いた。北征から五年後、長く病床にいた先王が崩御。
アウレリアーナは、王族の兄弟の圧倒的な支持を受け、即位することになる。
アウレリアーナ女王の誕生であった。
その右腕として知られる中臣静馬は、北征の三年後、叙勲を受ける。
カグヤの北方に領地を賜り、辺境伯として王国貴族の末席に名を連ねることになる。その翌年に、彼はアウレリアーナ女王に求婚。
めでたく、二人は結ばれることとなる。
彼の名は、特にカグヤ、ソユーズなどの外様の民族たちには畏怖と共に記憶の中に刻まれた。ソユーズの逸話では、駄々をこねる子供に『ナカトミが来るぞ』と声を掛けるだけで泣き止む、というものが残されるほどであった。
猛将、中臣静馬――彼の名は、中臣無敗として今でもこの地に残されている。
だが、その名に反して、領主としての彼は、とても温厚な性格であり、領民たちに気さくに接していた。不正を許さず、弱き者を愛したため、彼こそが貴族の鑑だと称えられた、という。
(中略)
アウレリアーナ女王の治政に協力した人物として、最も著名であるのは以下の二名であろう。
一人は松原空也、という男性。もう一人はシンク・クルセイドという女性。
シンク・クルセイドは、かつてソユーズの領主であったが、ソユーズの降伏に伴い、ウェルネスの地に移ったとされる。
空也に関しては、来歴が一切残されていない。
そのため、中臣静馬の腹違いの兄弟、腹心などという伝承があるがいずれも確証に足る文献は残されていない。
その両名は非常に仲睦ましく、北征後、カグヤ自治州の一角ののどかな村で暮らし始める。そこで、孤児院を築き、戦争孤児等の養育に精を出した。
その孤児院の名は『クルセイド寺院』と呼ばれ、現在でも残っている。
その寺院を参考に、アウレリアーナ女王は教育制度を改革。それに助言する形で、空也とシンク両名はその改革に参画。
また、他分野において、さまざまな改革に助言をし、王国の近代化に大きく貢献した人物とされる。後に、彼らは王国産業の父母、として称えられた。
だが、彼らは軍事には決して賛同せず、また他国の引き抜きには応じなかった。
アウレリアーナ女王と、次代の王、ショウ王はその意思を尊重しながら、その助言に耳を傾け、彼らに対しては手厚く遇した。
そのもらった褒美も、彼らは孤児院のために使い、欲を出すことはなく、終生、その村で暮らし続けたという。
二人の間には、三男二女の子宝に恵まれ、さらには多くの孫にも恵まれた。
二人の最期は、多くの家族や親戚、友人に見守られ、奇しくも二人同じ日、同じ時間に息を引き取ったとされる。
(ウェルネス王国記より抜粋)
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