第2話
「"統合者"のアレンです。どうぞよろしく」
彼の声は静かだったが、まるで人の心へ直接語りかけているかのような力強さがあった。彼が言葉を発してからざわついていたクラスから一切の音が消えたのがその証拠だろう。
長めで、少し天然パーマが入った前髪からのぞく瞳は大きく、ほほが穏やかな笑みを抱えている。全身をほぼ黒の単色で包んだコート。唯一赤いネクタイがなかなか粋だ。
「これ以上の僕の紹介は後に回しましょう。早速ですが、この中に既に統合者であるという人はいますか?」
誰も反応しない。質問の対象をこの学校全体に広げても同じ結果になるだろう。それくらい統合者とは珍しい。
「ではまず統合者と呼ばれる人間についてから始めましょう。この世界にはふたつの人種が存在すると言われています。私のような統合者、そしてあなたたちのような"探求者"です。ふたつの違いを説明できるという人はいますか?」
あちこちから小さなざわめきが聞こえ始める。それは次第にひとつの大きな雑音となり、そのうち前の方の誰かが答えた。
「体と心が一致しているかいないか....です」
彼はゆっくりとうなづく。
体と心が一致していない。それは言葉通りの意味である。例えば思った通りに体が動かないことがあるだろう。逆に、そんなつもりはなかったのに体が勝手に動いてしまうことがあるだろう。時にその「ずれ」が大きな失敗をもたらし、その圧に耐えきれず心を病んでしまう人も多い。
これは全て、その人の心が間違った体に宿ってしまったからなのである。
Aという心が生まれたとする。Aはもちろん専用の体であるaに宿るべきなのだが、まだ未熟でフラフラとしたまるで幼い子供のような心は、全く関係のない器であるbに宿ってしまうのである。
これはどの心にも言えることで、未だ生まれた時から正しい器にやどって生まれた人間は確認されていない。少なくとも私の知る限りは。
「自分の本当の体がどこにあるのかは私たちには分かりません。とても遠い所にいるのかもしれないし、もしかしたら案外近くにいるのかもしれない。ふたつが出会うのは、運命の人を見つけるよりもずっと難しいことと言えるでしょう。」
しかし奇跡というのは時に起こるものなのである。
「私が自分の体を見つけたのは12年前のことです。人は自らの体を見つけた時、直感的にそれが分かるそうです。私自身もそうでしたし、知り合いも同じことを言っていました。」
私はもともと統合者に興味があって、色んな話を聞いてきた。
しかし周りに統合者はいなかったため、詳しい話は知らない。せいぜい噂程度。これから彼が話すことは、きっと私が今まで知りえなかったことばかりだろう。そう思うと心が踊った。
「詳しい経緯は申し訳ありませんがお話できません。そこで今日は、本当の体に出会った人に何が起こるのかの、一般的な話をしていきたいと思います。基本的に、本当に欲しいものを見つけた人の行動は1つ。どんな手を使ってもそれを手に入れようとします。まずは、体に近づき、持ち主へそれを伝える。持ち主の方も、言葉なしに今自分に近づいてきた人がどんな存在かをすぐに察すそうですが。この後、2択が発生します。体の持ち主が、素直にそのからだを手放してくれるか否か...」
ここで彼は1度息を着いた。
とても不思議な話を聞いている。まるで小さな頃母さんに読んでもらったおとぎ話のような。そんな気分だった。
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