未完成なこの世界
ろいこ
第1話
朝起きると、なぜか涙を流している日がある。悪い夢でも見たのかなと思い出そうとしても、何も覚えてはいないのだった。
「ハンナー。起きているなら水をくんできて」
リビングから母さんの呼ぶ声がした。
「すぐ行くー」
1度大きく伸びをして応える。すぐに行くとは言ったものの、毛布で涙を拭いたあと少しの間はベットから出ない。
寒くて外に出るのが億劫なのもあるが、1度目が真っ赤なまま顔をあわせた母さんにとても心配されたことがあった。
それ以来泣いていた朝は少しでも目の腫れが引くのを待つようにしている。あまり遅いとそれも心配されるので気休め程度ではあるのだが。
水をくんで戻ってくると、机にはすでに朝ごはんが並んでいた。コップにくんできた水を注いで席につく。父さんは仕事で既に家にはいない。母さんと他愛ない話をしながら手早く食べ終えた。
私の住んでいる村から学校までだいたい40分。歩くにはなかなかの距離だが、道が整備されているだけ私はまだいい方と言える。
「ハンナ。おはよ」
「おはようシュティ」
シュティルは学校までの道のりにある村に住む女の子である。村が隣なのと、よく登下校を共にしていたので仲良くなった。
あまり口数が多い方ではないが、表情豊かで優しい雰囲気がある。聞き上手なところがあり昔から相談に乗ってもらっていた。
「ハンナ、楽しみ?」
「うん」
シュティの言っているのは、今日学校に来るという外部講師の話だ。この世界の要人とも言えるであろう人が来るのは、私たちの学校がそれなりに優秀であるからだろう。過去の努力と入れてくれた両親に感謝する。
私はその外部講師の話に特別興味があった。最後の昼過ぎ授業の時間に設定されたそれを考えると、ほかの授業に今日は身が入らなかった。
「今から本日の講師の方をお呼びするが、みんなくれぐれも失礼の内容に」
先生の声が耳に入っているのかいないのか、クラスメートは未だにざわついている。
私も内心穏やかではなかったが、その時をたんたんと待った。
そして、彼と出会うことになる。
「こんにちは。"統合者"のアレンです」
そこにはもう一切の雑音はなかった。
「どうぞよろしく」
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