第九六話:キミたちキュウリ、バナナ、ゴーヤだね

 湯気の向こうから登場した5人のツインテール。

 髪の色が違うだけで、顔もボディラインも全く同じだった。

 確か、ツルリィ、ペタリィ、ロリリィ、ペドリィ、ヨジョリィだったか……。

 エロリィを含め六つ子の姉妹だ。


「もうね、アンタたち、なにしに来たのよ!」


 ザバッとお風呂のお湯がはねる。

 俺の膝の上にチョコンと座っていたエロリィが立ち上がったのだ。

 俺の顔の真正面に真っ白でツルンとした可愛い桃のような物体が出現。

 エロリィのお尻。

 さっきまで、このお尻が俺の膝の上にあったわけだ。


「お姉様の男をおもてなしするのよ!」

「そうなのよ、神聖ロリコーン王国の国賓としておもてなしなのよ!」


 同じ顔をしているので誰が誰だか分からない。

 5人の内2人が言葉を発し、残りの4人がエアマットのようなものを敷き詰めはじめた。


「ペドリィ、ヨジョリィ、アンタたち、晩餐(ばんさん)の準備はどうしたのよッ」


 エロリィが妹たちを指さして言った。


「もう仕込みは終わってるのよ! ずっと仕込んでいたのよ! 最高のお料理ができているのよ!」


 妹の1人が言ったのだが、誰が誰だかさっぱり分からん。

 ポカーンと見つめるしかない俺。

 ライサも後ろから俺の首に手を回して凝固していた。


「アイン……」


「なんだ? ライサ」


「見分け付かない……」


「心配するな俺もだ」


 こんな不安そうに話すライサは初めてだった。

 まあ、宿敵ともいえるような存在が一気に6倍に増殖したんだ。

 殺意の塊で、美少女殺戮兵器でもフリーズするしかない。

 どう対応していいのか、分からんのだろう。


 広い風呂場にエアマットのような物が敷かれ、全員が一列に並んだ。


「「「「「お客さん、このお店初めて?」」」」」


 5つの同じ顔が一斉に声を上げた。


「「「「「学生さん? 若いうちからこんな遊びしていいの?」」」」」


 そう言うと全員が洗面器をかき混ぜはじめた。

 洗面器にはいつの間にか、ヌルヌルした液体が溢れだしていた。

 

 ニュニュル、キュリュキュリュと細く白い腕が、ヌルヌルした液体をかき混ぜる音が響いた。


「おい、エロリィ……」


「なによ、アイン」


「なにやっての? キミの妹たち……」


「儀式なのよ。古代魔法文明に記された、最高級の「接待」の儀式なのよ!」

 

 エロリィの説明によると最初の挨拶は、古代魔法言語とのこと。


 俺には、一瞬日本語に聞こえた。

 まるで『お客さん、このお店初めて?』と『学生さん? 若いうちからこんな遊びしていいの?』に聞こえた。


 これは、古代魔法言語だった。

 意味は分からないが、この儀式を始めるにあたって、儀礼的に発する言葉らしい。


 まあ、別の言語が偶然、同じ発音に聞こえることは珍しくは無い。


「What time is it now?」が「掘ったイモいじくるな」に聞こえるのと同じ理屈だろう。

 洋楽の歌詞が「空耳」で日本語に聞こえることもある。まあ、そういった物だと俺も理解した。


「なんだよ? あのヌルヌルしたヤツは」


 ルビーの瞳が、胡散くさそうに見つめる。

 ライサはさっきから、俺にべったりくっついたままだ。

 6人に増殖したエロリィに脅威を感じているのかもしれない。


 5人の幼女が一心不乱に洗面器に入ったヌルヌルした液体をかき混ぜていた。

 洗面器から手を上げると、それがニューンと伸びていく。糸を引くようなヌルヌルさだった。


「もうね、あれは神聖ロリコーン王国のヌルヌル液なのよ!」


「ヌルヌル液?」


「古代魔法文明を解析して、造り上げた王族専用のヌルヌル液なのよ!」

 

 エロリィが解説するが、解説になっていない。

 そもそもヌルヌル液なんだよ?

 王族専用って、王族専用以外のヌルヌル液ってのもあるのかよ?


 俺がそんなことを考えていると、エロリィの妹たちが、洗面器中身をぶちまけた。

 エアマットの上に、ヌルヌルした液体をぶちまけたのだ。


「きゃははははは!! ヌルヌル液を伸ばすのよ! 流麗なボディで伸ばすのよ」

「もうね、ヌルヌルなのよ! お姉様の男もこれで一発なのよ」

「もうね、お姉様の男は、『お兄様』なのよ! 『お兄たん』と呼んでもいいのよ!」

「ヌルヌルは気持ちいいのよ! 幼い身体なのに、気持ちよくなっちゃうのよ!」

「おもてなしなのよ! もうね、神聖ロリコーン王国の夢のおもてなしなのよ!」


「キャハハハハハ」という精神のタガが外れたような甲高い笑い声が5倍に増強され頭に響く。

 小さな肢体をエアマットの上で滑らせる5人の幼女。

 ヌルヌル液がエアマットの上に広がっていく。


        ◇◇◇◇◇◇


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁ~ 気持ちいい゛い゛い゛い゛い゛ぃぃぃ~」


 気が付くと、俺はエアマットの上に乗っかっていた。 

 その俺の身体の上を6人の同じ顔をした幼女が滑っていく。

 気持ちいい――

 フラットなボディがヌルヌル液で摩擦抵抗を減らし、滑りまくる。

 これは、未知の感覚だった。


「あはッ! バカ! やめろ! そんな!! 触るなぁぁぁぁぁああああああ~」


「赤い髪のおねえさまも、キレイなのよ! もうね、一緒にキレイにしてあげるのよぉ!」

「バカ! そんなこと! 指を!! ばかぁぁ!」

「もうね、反応がいいのよ! 敏感なのよ、お兄様に開発され済みなのよぉ!」

「あふッ……」


 ライサも俺と一緒にエアマットに転がされていた。

 俺の許嫁として、エロリィと正妻の座を争うライサがその宿敵と同じ顔をした存在に翻弄されていた。

  

 ライサの上にもエロリィの妹がヌルヌルとすべりまくっている。

 もう何をやっているのか、分からん状態だ。

 

「もうね、アインは私とチュウをするのよ!」

 

 いつの間にか、エロリィが混じっている。

 俺の身体の上に乗ってきて、強引に唇を奪ってきた。

 北欧の妖精のような姿をした「ナチュラル・ボーン・ビッチ」だった。

 エロリィのベロが俺のベロに絡みついてくる。


「ア、アイ~ン、こ、コイツら…… ヤバい…… んぐッ……」


 喘ぐような吐息に混じり、ライサが声を出した。


 エロリィとライサがベロチュウしていた。

 いや、違う。

 髪の色が濃い青だ。誰だっけ? ツルリィか? ペドリィか?

 もう、分けわからん。

 

「赤い髪のお姉さま! 口の中もキレイにしてあげるのよ!」

「もうね、ヌルヌルでお兄ちゃんと溶けあうのよ!」

「あああん、お兄たんの身体がヌルヌルなのよ!」

「お兄様はまだまだ元気なのよ! もっとヌルヌルなのよ!」


 俺とライサは、エロリィ6姉妹に翻弄され、弄ばれたのであった。

 俺は、あまりの気持ちよさに、意識が遠のいていった。


        ◇◇◇◇◇◇


「コ、コイツら、とんでもねぇぞ……」


 ぐったりした感じでつぶやくライサ。


「お、おう……」


 俺も同意するしかない。


 戦闘と同レベルで、そのビッチぶりも超絶級のライサが疲れを見せている。

 超ビッチ6つ子のヌルヌルおもてなしは、それほどまでに恐ろしいものだった。

 俺なんか、途中で気を失ったから。

 エロリィのベロチュウ以降の記憶が吹っ飛んでいる。


 気がついたら部屋に戻っていたからな。


「ご飯なのよ! 神聖ロリコーン王国は料理文化も進んでいるのよ!」


 エロリィは元気だった。

 金髪ツインテールからキラキラと光をこぼしている。

 風呂上がりの肌は艶々していた。


「お姉さま、ご飯ができたのよ! 私たちが仕込んだのよ!」


 エロリィの姉妹たちがガラガラとホテルで使うような「サービスワゴン」を押してきた。

 お皿が乗って蓋がしてあった。見た目がなんか高級そうだった。


 そのお皿をエロリィの妹たちがテーブルに並べていく。


「私が仕込んだ『ニンジン』なのよ!」

「私が仕込んだ『キュウリ』なのよ!」

「私が仕込んだ『ナスビ』なのよ!」

「私が仕込んだ『バナナ』なのよ!」

「私が仕込んだ『ゴーヤ』なのよ!」


 皿の上にマルまんまの野菜が並ぶ。

 生野菜?

 なにこれ?

 仕込んだってなに?


「野菜、ばっかじゃねーか……」


 ライサが呆れたように言った。

 いや……

 たぶん、突っ込みどころはそこじゃない。

 というか、これ突っ込んでいいのか?


「もうね! これは神聖ロリコーン王国の最上級のおもてなし料理なのよ! 信者は、これを歓喜の涙で食すのよ!」


 エロリィはそう言うと、キュウリを手に取った。 

 真っ赤なベロを伸ばしそれを愛おしそうに舐めた。

 そして、小さな口いっぱいに頬張った。


 そして、もう一方の端を俺の方に突き出した。

 俺にもう一方を咥えろというのか。


「もうね、お姉さまとお兄様が、口移しでつながりながら食べるのよ!」


「もうね、長時間仕込んだ、キュウリなのよ! エキスが染み込んで美味しいのよ!」


 せっかく出された料理だ。

 そして、食文化とは、地域ごとに違って当然だ。

 俺はエロリィが咥えたキュウリの端っこを口の中に入れた。


 なんか、人肌の温もりのあるキュウリだった。

 ほのかに塩味が効いているような気がした――


「赤い髪のお姉さまには、ゴーヤを食べてもらうのよ!」

「もうね、ダメなのよ! 私のバナナを食べてもらうのよ!」


「やめろぉぉ! よるな! オマエらよるな! 殺すぞ! ぶち殺すぞ!」


「もうね! お姉さまに殺して欲しいのよ! 責められて死ぬって言いたいのよ!」


「バカか! オマエらぁぁ!! 本気で…… おごっ――」


 エロリィの妹たちが集団で、ライサを囲んだ。

 なんか、ライサはゴーヤを口に捻じ込まれている。


 俺はシャコシャコと塩のきいたキュウリをかじりながらその珍しい光景を見ていた。


『なにこれ、ねじりん棒みたいだわ――』


 俺の身体の中に引きこもっているヲタ精霊のサラームがつぶやいた。


        ◇◇◇◇◇◇


「なあ、エロリィ」


「なによ、アイン」


「ここどこだよ?」


「もうね、私は座標通り転移したのよ!」


 翌日、俺たちは、エロリィの転移魔法で、ライサの故郷である「ナグール王国」跳んだ。

 そのはずだった……


 しかし、見渡す限り密林。なんというか、人気など無い。


「ここがナグール王国なのよ! ド田舎なのよ! もうね鳥も通わぬド僻地なのよ!」


「そうなのか?」


「あはッ! バーカ! ここが私の国のわけねーだろ! このクソビッチロリ姫! てめぇがミスッたんだろうが!」


 ライサが言い放つ。確かにどーみても人が住むような場所じゃない。

 密林の奥底。昼間なのに、なんか薄暗いのだ。


「もうね、間違えるはずないのよ! 座標に間違いはないのよ!」


 エロリィは、「聖装衣・エローエ」をはためかせ言い切った。

 この服で魔力をブーストさせ、どこにでも転移が可能になるはずだった。


『ギギャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアーース!!』


 ビリビリと密林が震えるような叫びが聞こえた。

 なんだ? この声。

 俺は嫌な予感しかしなかった。


        ◇◇◇◇◇◇


「ふむ―― 生産よりも物流へのダメージが大きかったということか」


 天災&戦災復興大臣となったエルフの千葉が書類に目を通しながらつぶやいた。


「さすが、エルフの千葉閣下でございます」


 セバスチャンだった。

 中年の侍従長だ。

 本来であれば、国王であるガルダフ三世の晩ごはんの世話でもしているべき人材であった。

 それが、今は千葉の補佐のような役割になっていた。


「転移魔法を使える者の報告によるとだ――」


 そう言うと、エルフの千葉はパンゲア大陸の描かれた地図を指さす。


「ここ、そして、ここ、このあたりも大陸が引き裂かれ、地形が変化していることになる」


「左様にございますな」


 巨大なパンゲア大陸がいくつかに引き裂かれている事実。

 これは、アインの放った攻撃魔法の結果であった。

 15万人のガチホモ兵に包囲されたパンゲア城。

 そのガチホモ兵を一気に殲滅した魔法だ。


 城内にあった、石を凄まじい速度で撃ちだし、その物理エネルギーで殲滅戦を仕掛けたものである。

 それはパンゲア大陸の地殻を引き裂き、戦禍以上の大災害を起こしていた。


 しかし、公式には「天変地異」ということになっている。

 心の友であり、許嫁でもあるエルフの千葉もその公式見解に従っている。

 よって、「アインが悪い」とは言わないし、思わない。

 あの攻撃がなければ、この第二次ノンケ狩り戦争の勝利もなかったかもしれないのだ。


「まあ、幸いなことに、神聖ロリコーン王国との位置関係は変化ない。温泉村もそうだ」


 大陸でも同じプレート上にあった国や自治都市の位置関係や、道路インフラはそれほどダメージを受けてなかった。


「とりあえず、今は遠隔地は仕方ない。まずは、有力な自治都市、温泉村と話をつけねばなるまい――」


「あちらの代表がそろそろ到着するころなのですが」

 

 平坦な声でセバスチャンが言った。


 転移魔法を使える魔法使いは、各地の被害状況や、地形に変化の調査にかかりきりだった。

 それに、何人も抱えて、転移できるような能力をもった魔法使いはいないのだ。

 自分だけを転移させるだけも、超一流の魔法使いといえる。

 エロリィや、アインの父親であるシュバインの存在は例外だった。


「千葉大臣閣下!」


 執務室に下っ端の役人が入ってきた。


「なんだ?」


 ビシッと敬礼して、その役人は背筋を伸ばす。

 エルフの千葉がやらせている事だった。


「フィナーバッシュヘルズセンタ村代表の者がきましたが……」


「来たか。結構早いな」


 エルフの千葉は、エメラルドグリーンの髪をかきあげながら言った。


「しかし…… あれ…… 代表なんですかね……」


 報告した役人の言葉のキレが悪かった。


「ん? なんだ。なにが――」


 エルフの千葉の言葉が途切れた。部屋に入ってきた者を見たからだ。

 者というか、人外だった。

 そして、エルフの千葉はその人外の存在のことをよく知っていた。


「あああん、あら天成君じゃないのね…… 大人の女を呼びつけて、一体どうして欲しいのかしら、うふふ。千葉君も結構強引なのね。先生どうしたらいいの?(ああん、教え子に迫られて―― 真央ったら、何を期待しているの? この28歳の身体の奥が熱くなっているのはなぜ? うふん)」


 ダダ漏れの内面描写が空間に流れ込む。


「真央先生――」


 エルフの美少女にTSした男子高校生である千葉。

 人外の魔族と融合した28歳の女教師である池内真央。


 運命の再開であった。

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