第九五話:転移テストとお風呂
「おぉぉぉぉ!」
俺は、その場に出現した圧力に足を踏ん張る。
エロリィは、静かに目を閉じている。
横顔から、金色の長いまつ毛が際立って見える。
いつの間にかエロリィの身体が、青く輝く輪に包まれている。
複雑な紋様の描かれた光の魔法陣。
それが、エロリィの細く小さい身体を軸にして幾つも回転している。
「複層魔法陣か……」
エロリィが腕や脚に展開するいつもの魔法陣よりも輝きが強く、そして大きい。
俺は、目に見えない圧力を全身で感じていた。
『このビッチは、本当に人間なの……』
サラームの驚きの声が俺の脳内に聞こえてくる。
通常、人間は精霊に魔力を与えることで、魔法を起動させる。
しかし、エロリィの操る「禁呪」は精霊を介さず、物理現象を引き起こすものだ。
空間転移すら行うことが出来る。
「ひゃはははははははははははは!! もうね、凄いのよぉ! 魔力でパンパンなのよぉ。らめぇ~って、言っても止まらないのよぉ!」
体の周囲に渦巻く魔力の奔流。
黄金のフォトンをキラキラと拡散させ、長い金髪ツインテールがその中を舞っている。
パタパタと「聖装衣・エローエ」もはためく。
服としての作りは、バスタオルに穴をあけて首を通したような雑なものだ。
それを腰のところで縛っただけなのだ。
でもって、表裏にどう考えてもエロ漫画としか思えない絵が描かれた服。
それが「聖装衣・エローエ」だ。
淡く溶けてしまいそうなほどの透明な肌。
エロリィの服から伸びる脚も同じ色をしている。
その根元。
ヤバい翳りのある部分までが見えそう。
いや、ギリギリで見えないか……
「もうね、凄いのよ! お姉さま神々しいのよぉ!」
「もうね、さすが! お姉さま凛々しいのよぉ!」
エロリィの妹であるツルリィとペタリィが輪唱した。
エロリィの六子の姉妹。その2人だ。
「ふ~ん、これが、エローエかぁ」
ライサも珍しそうにジッとエロリィを見つめている。
ルビー色の瞳が大きく見開かれている。
彼女が、エロリィに敵意と殺意以外の興味を持つのは珍しいことだった。
千葉がいたら「おぉぉぉ!! 神だ! 神が降臨したのだ! 現人(あらひと)女神であぁぁぁーるぅぅ!! エロリィちゃんの実存こそが、唯一の真理! 至高にして最高!! 俺は、この美のために、その最後の血の一滴までも捧げる覚悟があるのだぁぁ!! 死が俺の動きを止めたとしても俺の魂は死なぬ! エロリィちゃんを求めて復活するのであーる! 北欧バンザイ! たとえ罪人として、永劫なる楽園を追放されし者となっても『生えてない』『きていない』こそが真理であると、俺は信ずる。『それでも、エロリィちゃんは生えてないし、きていないのだ』と! 俺は神に対峙しても、そう宣言するのである!」というように叫んで、しゃがんで覗きこんでいるだろう。リアルシャドーのように、その姿が見えてくるようだった。
しかし、そんなエルフの千葉君はここにはいない。
今はどこで何をやっているのか……
俺がそんなことを考えていると、エロリィはゆっくりと目を開いた。
彼女の小さく、フラットな胸が少し膨らむ。
息を大きく吸いこんだのだ。
エロリィの身体の周りを回転していた魔法陣はしぼむようにして徐々に縮んでいく。
それがエロリィの身体の中にスッと吸い込まれるように消えた。
それと同時に、魔力光も消え、部屋は元の明るさに戻った。
金色の長いまつ毛が瞳に作る影が徐々に小さくなっていく。
身を翻し、俺の方を向きなおるエロリィ。笑みを浮かべ、両手を広げた。
長いツインテールが舞って金色のフォトンがこぼれ落ちていく。
「アイン、これが『聖装衣・エローエ』なのよ」
碧く大きな瞳が俺を見つめる。
なんで、こんなにコイツは可愛らしい外見をしているんだ……
あらためて俺は息を飲む。
「聖装衣・エローエ」を身に付けたエロリィは可愛さがアップしているような気がした。
まて、違う。そうじゃない。
俺は頭を振った。
これはエロリィをパワーアップさせるための古代魔法文明の生み出した技術の結晶なのだ。
「エロリィ、パワーアップは?」
俺は肝心なことを訊いた。
「聖装衣・エローエ」でエロリィの禁呪をパワーアップして、シャラートを助けるために、転移する。
封印された禁忌の島「イオォール」にだ。
「きゃははははははははは!! もうね、問題ないのよ! 起動実験は大成功なのよぉ! 禁呪の超天才プリンセス様は、無敵で無敗の超最強の禁呪使いになったのよぉ! 」
空気抵抗が超音速戦闘機以上の胸を張って、絶叫するエロリィ。
「あはッ、そんなに変わったように見えねーけどな」
ライサが鼻で笑いながら言った。
「なによ! 『聖装衣・エローエ』で女の魅力もパワーアップした私に嫉妬しているのよ! この赤色ゴリラ女がぁぁぁ!!」
「てめぇ、古代魔法文明の技術かなにかしらねーが、いい気になるなよ!」
ガッとライサが立ち上がった。
その瞬間、右手に釘バットが握られていた。
獰猛で美しい笑みをその相貌に浮かべた。
牙のような犬歯が彼女の口元から見えた。
「もうね、今の私なら、アンタなんか瞬殺なのよぉぉ!」
「ほうぉぉ―― 殺し合いか? いいね。ここで、殺してやってもいいぜ。ブチ殺して、肉塊にしてやるか」
エロリィとライサの対峙する空間が、ビキビキと固形化していく。
2頭の巨大なモンスターが身にまとったオーラをバチバチとぶつけているような感じだ。
俺にはおなじみの展開だが、ツルリィとペタリィは恐怖で固まっていた。
姿かたちは同じでも、能力は全然違うようだ。
「おい! エロリィ! ライサ! やめろ」
以前であれば、俺はこの二人が争いはじめたら、手だしなど出来た物では無かった。
でも今は違う。
俺の声で、2人の俺の許嫁は俺を見つめた。
碧い瞳とルビーの瞳の視線が俺に集まる。
「もうね、アインの言う通りなのよ」
「ま、そうだったな」
2人から殺気が消え、ライサは再び、椅子に座った。そして長い脚を組んだ。
「でもさぁ、コイツで本当にパワーアップしているか試さなくていいのか?」
脳のシナプスまで殺意を帯びた筋繊維で出来ていると思っていたライサがまともなことを言った。
「確かに、結界で阻まれた場所への転移だからな…… テストしたいが……」
俺は考える。そうだ、引きこもりの精霊に相談してみるか。
『なあ、サラーム』
『なーに? アイン』
『どこか、転移魔法を防ぐような結界が張られている場所を知らんか?』
『転移魔法結界…… うーん、「イオォール」レベルってこと?』
『いや、そこまでなくていい。まずは軽い結界を突破できるのかどうかくらいは試したい』
俺はサラームと脳内で話をする。
『でも、そこそこ強い結界じゃないと意味ないわよね?』
『まあ、そうだな』
まてよと……
俺は、そのとき、ある案が頭に思い浮かんだ。
『サラームは結界張れるよな?』
『もちろんだわ!』
俺の中に引きこもる精霊様が自信たっぷりに言い放った。
『よし、分かった』
簡単な話だ。サラームにテスト用の対転移魔法結界を造らせる。
でもって、エロリィがそこを破れるかどうか、それをテストすればいい。
俺の魔力を注ぎ込めば、かなり強力な結界ができるはずだ。
「エロリィ、テスト方法を考えたぞ」
俺は「聖装衣・エローエ」をまとった美しき幼女婚約者にそう言ったのであった。
◇◇◇◇◇◇
「もうね、テストが必要なのは分かったのよ――」
エロリィは金色のまつ毛を沈み込ませた。
「でも、なんで、コイツの故郷にいくのよぉぉ!! 嫌なのよぉォ!! 蛮族の地なのよぉぉ! ド僻地のド田舎なのよぉ! 文化も文明もないのよぉ!」
ビシッとエロリィがライサを指さす。
「てめぇ、殺すぞ!」
マジの殺気を帯びた言葉を放つライサ。
「だから、他にないだろ! エロリィ」
「もうね…… アインが言うなら、仕方ないのよぉ~」
俺にしなだれかかってくるエロリィ。ツインテールがふわりと揺れる。
「聖装衣・エローエ」を身に付けたままだ。
タオル一枚を身にまとっているだけのようなものだ。柔肌の温度が染み込んできそうだ。
「チッ! このクソビッチロリ姫が……」
ライサがつぶやく。それを見て、エロリィが「ベー」と舌を出す。
「とにかく、オマエら、いい加減にしろって……」
フンとライサがそっぽを向いた。
なんか、へそ曲げたかな?
エローエのこともあって、俺もエロリィを可愛がり過ぎていたか……
俺は最近の「チュウの回数」と「おっぱいを揉む回数」の実績数値を思い浮かべる。
許嫁エッチ拡散禁止条約により、上限が定められている物だ。
確かに、ちょっとエロリィが多いか……
そうだよ。
その意味でも、やっぱりライサの故郷に行く意味はある。
エロリィの故郷だけ訪問して、ライサの故郷には行かないというのはどうだ?
行く必然性があるなら行くべきだ。
許嫁の扱いは平等でなければならない。俺のポリシーだ。
だから、シャラートを助け出したら、不在の間の「チュウの回数」と「おっぱいを揉む回数」を一気に実施する予定なのだ。
もう一つの行為は、俺の命に関わるので、そんなに出来ない。
そもそも、記憶を失うのでカウントしていないのだ。
多分、1日1回だと思うのだが……
最後までやってしまっているのかどうかは、いまだに分からない状況だった。
「シュレディンガーのDT」状態が続いている。
「とにかくだ」
俺は説明を開始する。
エロリィをきちんと椅子に座らせる。
「まず、距離の問題。イォールは遠いはずだ」
「もうね、『聖装衣エローエ』を身に付けた私には、距離なんて関係ないのよぉ」
「いや、テストは実際に近い形でやりたいんだ。失敗はできない」
俺の真面目な説明にエロリィは「フッ」息を吐いた。
一瞬だけ、寂しそうな笑みが浮かんだような気がした。
「もうね、それで転移魔法とかを使って出入りをしない場所で、対転移魔法結界をアインが造る。それを私が、ここから飛んで破ってみせると――」
「そうだな」
「だから、なんでそれが、この赤色ゴリラ女の故郷なのよぉぉ!」
「距離が遠くて、転移魔法を使う者がいないからだ」
俺は言った。
「あはッ、私の故郷は転移魔法結界とか関係なく、よそ者は寄り付かないからね! 転移魔法結界張っても迷惑にはならないよ」
ライサが言った。彼女の故郷であるナグール王国だ。
どこか、距離が遠くて、対転移魔法結界を張っても迷惑にならない場所はないかと話をしていたのだ。
そうしたら、ライサが、自分の故郷なら大丈夫だと言い出したわけだ。
「とにかく、時間が無いんだ」
俺は言った。
エロリィは、俺の言葉をジッと聞いていた。
そして、桜色の唇を開いた。
「もうね、分かったのよ…… でも、転移は明日なのよ。今日は一晩、私のところでお泊りなのよ!」
エロリィは碧い瞳を潤ませ、淫靡な視線を俺に絡ませるのであった。
◇◇◇◇◇◇
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ~ 気持ちいいなぁ~」
神聖ロリコーン王国は、古代魔法文明の研究では最先端を行っている国だ。
その研究費のため、国は大きな借金をしている。
しかしだ。
それでも、その研究は正しいと俺は思った。
風呂が素晴らしいのだ。
大理石で出来た大浴場。
熱いお湯。
前に滞在していた温泉村(名前忘れた)のような温泉ではないが、気持ちいいのだ。
パンゲア王国の風呂はどちらかというと、蒸し風呂に温いお湯という組み合わせが中心だった。
「あああ~ もうね、アインの指が気持ちいいのよ」
湯船につかって伸ばした脚の上にはちょこんとエロリィが座っている。
当然、落っこちないように俺は体を支えてあげるのだ。
おっぱいを支える。当然、揉んであげる。
エロリィの場合は、揉むというより、優しくクリクリするという感じだ。
固さの残る、ちっぱいの感触も俺は大好きだった。
「あはッ、アイン、チュウしてよぉ」
俺の背中に瑞々しいふくらみの感触がある。
後ろから俺の首に手を回してくる。
俺は顔を横にむけた。ルビー色の瞳をした超絶美少女がそこにいる。
濡れた長い髪も、緋色だ。
細く引き締まった肢体を俺の背中に密着させ、俺とベロチュウをするライサ。
ベロを思い切り吸われる。
気持ちいい。
すごく気持ちいい。
しかしだ――
ここには、決定的な物が欠けていた。
俺専用で、至上の弾力と大きさをもったおっぱいの持ち主。
長い黒髪に、メガネの奥の涼しげな眼差し。
痴女どころか、狂気といっていいレベルの俺へのガチ惚れぶり。
シャラート――
俺は二人の許嫁とお風呂で密着しながらも、彼女のことを考えた。
チュウの回数、おっぱいを揉む回数。
それをしっかりカウントする。
シャラートにはたまった分を一気に実施するためだ。
そのときだった。
湯気の向こうから俺の思考を遮断する声が響いてきた。
「お姉様がいるのよぉぉ! もうね、男とエロいことやってるのよぉぉ! お腹がパンパンになるのよぉ!」
「もうね、エロリィお姉様は、男を操る技術も天才なのよぉ! そのお姉様がトロ顔なのよぉ!」
「お姉様の男を、私たちも見たいのよぉぉ! もうね、隅々まで見たいのよぉ!」
「6人姉妹でお風呂に入るのは、久しぶりなのよぉ! もうね、見せっこするのよぉ!」
「もうね! エロリィお姉様の男を皆で歓待するのよぉぉ! 神聖ロリコーン王国の素晴らしさを知ってもらうのよ!」
湯気の向こうからやって来た。
全部同じ顔だった。
エロリィと同じ顔。同じツインテール。
ツルリィ、ペタリィ、ロリリィ、ペドリィ、ヨジョリィ――
エロリィの六つ子の妹たちであった。
全員が洗面器に、エアマットのような物を持っていた。
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